第71章 【逆ハールート】主婦は偉大だ
「………なぁ、あのさ」
「うん? ハッ!! 先に言っておくけど今は何もしないからね!」
「えぇ━━?! ダメなの!? この空気でぇ? お前酷くない?!」
おそ松が言いたい事を悟るとすぐにその行為を止めようと既に手を動かし触れようとしてきたおそ松の手を押える。
「だって私達、買い物に行かないとだし……」
「そう言っておいて、お前また逃げてるんだろぉ?」
「ぅ……、覚悟はしててもやっぱ緊張するよね。 いくらおそ松相手でも」
顔を見られたくないと思い、おそ松の胸にまた顔を埋めてしまう。
更にドクドクと高鳴る音は彼からなのか、自分の音からなのか、心臓の音が煩くてわからない。
「いくらは余計だっつの! 俺だってそうだよお? だって童貞だし、一緒だろ?」
「うん、そうなんだけど」
とは言いながらも、買い物をしなくてはいけないのは本当だ。
あまり長くこの場にいれば多分誰かしらが怪しむだろう。
買い物にはついて来る気配のない面倒臭がりの六つ子でも、恋人の身に何かしらあれば黙ってはいないハズである。
「……………」
ギュっと赤いパーカーを掴む手が緊張から微かに震えてしまう。
恐怖はないが初めてと言うのは、本当の事を言ってしまえば色々な事を考えてしまい実は少し怖かった。
「ナス子、こっち向いて」
「………っ」
この空気からいつも強引なおそ松は引く事をしないだろうと思うナス子は顔を上げるのを躊躇ってしまうのだが、その頭頂部に唇が重なりフワリと心に温もりがこもる。
恐る恐る顔を上げて相手の顔を見ると、同じく緊張した赤い顔の面持ちで抱きしめた相手を見ているおそ松の瞳はナス子の知るおそ松と言うより、一人の男性だった。
「お、おそま……」
「ぶっさいくな顔~、なははははは」
「ちょっ、こ、ここでそれを言うかな?!」
一瞬の真剣な表情と目が合った時、大きく脈が跳ねてしまっていたナス子も、おそ松の茶化す声に少し安心して文句を返す。