第70章 【逆ハールート】花見 翌日のお泊り
翌日。
約束通り……いや約束をしたかどうかは定かではないのだが、ナス子は松野家へと足を運び、松代に料理を習っていた。
もちろん、前日の夜にちゃんと連絡の電話をしてからの訪問だ。
「そうそう、それがいちょう切りね。切った形が銀杏の葉に見えるからそう言われてるのよ」
「野菜の切り方って色々あるんですねぇ~見たことはあるはずなんだけど、自分で切るってなると見方が変わりますねっ」
「うふふふ、そうかもしれないわねぇ」
台所で楽しそうに料理の勉強を教わるナス子と、これまた嬉しそうに教える松代の姿を後ろから見つめ、六つ子は溜め息を漏らす。
「母さん、嬉しそうだね!」
ニッコリと笑って十四松がそう言うと、兄弟たちが微笑ましい表情でうんうんと頷く。
「そりゃそうでしょ~、6人も子供がいるのに全員男。料理なんて教える機会もないし。さすがに母さんにはナス子姉も素直だからね~」
「なんかアレだなっ、仲の良い嫁と姑を後ろから見守ってる旦那の気分ってこんな感じなのかねぇ……」
トド松、おそ松の言葉に、先程と同じように動きを揃えて微笑ましい表情はそのままに頷く兄弟たち。
「ずっと見てたい気もするけど……邪魔しちゃ悪いし、大人しくしてます?」
「ああそうだな。刃物を扱っているし、驚かせたり慌てさせたりしたら危ないからな」
「だね。はいっ、じゃあみんな撤収っ!」
パン! とチョロ松が両手を叩くと、各々拡散するわけだが、誰一人外へ出かけることはせず、結局二階のいつもの部屋でいつものようにダラダラと過ごす。
拡散した意味とは。
それからしばらくして、おやつの時間午後3時。
台所からナス子が持参したケーキを人数分用意して現れると、皆一斉に居間のちゃぶ台へと集まった。
「アンタら……まったくいいご身分だことー」
ただ座っておやつを待っている六人に冷めた視線を向けながらも一人一人の前にケーキが乗ったお皿を並べてやる。
「そんなの今更だろぉ? 俺達のニート力なめんなよ」
「威張るなおそ松! まったく……おやつぐらい自分で用意しろってのっ……松代さんの普段の苦労が偲ばれるわ」
言いながら自分も六つ子の間に入ってケーキを前に手を合わせる。