第9章 楽しいがいっぱい 十四松side
二人で波打ち際に座って、海の音を聞いてる。
いつもの河原の音も好きだけど、ここの音も好き。
目を瞑って潮の匂いを鼻いっぱいに吸い込んでいると、姉さんが口を開く。
「海ってさ、人が帰る場所なんじゃないかってたまに思うんだよねぇ」
「へぇ???」
「ほら! 人間て元は海からきたとかいうじゃん?ご先祖様がどーのこーので」
「どーのこーの?」
「いや、私バカだから詳しい事は知らないんだけど、へへへ。でもこの波の音聞いてると、そんな感じがするんだよねぇ」
「んー、そうなんだ??? ボクわかんないや!」
「実は私も何言いたいのかわかんなくなったー」
「あははー、なにそれー!」
また一緒に笑った。今日はいっぱい笑ってるなぁ。
お互い手を伸ばして座ってたから、たまたま手の先っちょが姉さんにあたった。
「・・・」
「・・・」
ボクは無言のまま姉さんの手を握ってみた。別に変な事は考えてないよ?
なんだか姉さんが少ししんみりしてたから握ったんだよ?
「なんかあったの、姉さん?」
「ん? なんで??」
「んーっと、えーっと・・・わかんないけど、勘!」
何かあったのと聞いた時、一瞬姉さんの目が揺らいだ気がしたんだよね。
別に何もないんなら僕はいいんだけど、やっぱ姉さんは笑ってる方が似合ってるよね。
「うーん、何も、ないかな?」
「そうなの?」
でも姉さんは僕の手を握り返す。
「何もないけど、何かあったら怖いなっていうか・・・」
姉さんはたまに一松兄さんみたいに暗くなる時もある、今はそのモードチェンジに入っちゃったのかなぁ。
「十四松がいると、甘えたくなっちゃうね!」
「ほんと?!」
思ってる事と違う事が返ってきてボクは嬉しくなった。
今日何回嬉しいって思ったんだろ?
「ボクもね、姉さんといると甘えたくなるよー?」
「じゃぁ、一緒だ!」
ふふふ、と満足そうに手を繋いだまま笑いあった。
なんだろう、さっきから変な感じがするなー。
「・・・・・」
「・・・・・」
そうしてまた二人で黙って海を見て、潮の匂いを嗅ぐ。
こんな時間がボクにとって特別な時間だなって思った。
姉さんもそんな風に考えてくれてたらいいなって、ちょっと思ったのは姉さんには秘密だよ?