第3章 開き直られました
そりゃスティーブンさんにはスティーブンさんの言い分もあるだろう。
『外』にちゃんとした家のある子を、いつまでも置いておくわけに行かないだろうし。
それに私があまりに可憐で儚いから、好感度を下げるどころか上げてるようだし。
……コホン。調子こきました。
察するに、一緒に暮らしたら暮らしたで情が移ってきたんじゃないだろうか。
熱が冷めません殺せませんじゃ、スティーブンさんも困るのだろう。
被害者は私である。
気分次第で誘拐されたり、殺されかけたり、口説かれたり、放り出されたり。
でも相手は命の恩人。文句を言える立場ではない。
「……スティーブンさんの、バカ」
ポタッと涙がこぼれる。
私だって女だ。一目惚れしたって言われて最初は『えー』と思ったけど、スティーブンさんはカッコいいし気遣いが出来る大人の男性。
恋人扱いされ、気分が悪いわけがない。
口説かれて、いい気になって、それで本気になった途端にフラれる。
安っぽい少女漫画みたい。
ぎゅうっと、肌が白くなるほどシーツを強く握りしめる。
「…………でも」
元々成就しない恋だ。
私には帰る場所があるし、スティーブンさんはマフィア。
私たちは別々の世界で生きるべき――。
「あれ、マフィアじゃなかったんだっけ? スティーブンさんって」
そういえば結局何者なんだ、あの人。
ゴッホン!!
と、とにかく、ろくに素性も教えてくれない、危険な相手だ。
「あと多分、私とは別の恋人がいるし」
私はまぶたをこすり、ベッドサイドの鏡を見る。
泣きはらした目の小娘。
スティーブンさんに、とても釣り合わない。
「寝よ」
ダラダラと真っ黒思考に陥っても、どうにもならない。
せめてスッキリきれいに別れることだ。
最初に思ったときのように。
『良い子を泊めた』と少しでも覚えていてもらえるように。
しかし、いつまで経っても眠れなかった。
呪いの安眠効果は、人には効いても私には効かないみたいだった。
…………
…………
「ハルカ、起きないか、ハルカ。病院に行く時間だぞ」
誰かが私の肩を揺さぶっている。
しかし私は眠い。首を振って布団にくるまった。