第4章 開き直りました
焼きもちをやいたりスネたりするのは、筋違いだ。
当初からスティーブンさんには女性の影があった。
こんなカッコいい人を、女性がほっておくわけがない。
それに愛人が何人もいたとして、自分のふところ――家に上げてる私が最上位なのは間違いない。
理屈では分かってる!
そんなこと! 分かってるんだっ!!
でも最初に私に一目惚れして夢中になったのは、スティーブンさんじゃないか。
いつの間にか立場が逆転してた。いや、逆転させられた。
私は、スティーブンさんに逆らうのが怖くなった。
何も言えなくなってしまった。
遠目だったけど、きれいだった。あの人。
ブロンドで胸が大きくて唇もネイルもきれいで、けどスーツもカッコ良く着こなして高いヒールが似合ってた。歩く姿もモデルみたい。
仕事もオシャレも隙が無い、完璧なニューヨーカーって感じ。
私なんかより、よほどスティーブンさんとお似合いだった。
「…………」
「わっ!」
宙にふわっと浮いたかと思うと、一瞬遅れて大きなベッドが私を受け止めた。
「ハルカ」
私を押し倒しながら、スティーブンさんがスッとネクタイを抜く。
窮屈なボタンを数個外すと、首元のタトゥーがあらわになる。
「愛しているよ」
そう言ってキスをする。
昨日、いや今日の昼までは真に受けられた。
疑いつつも、愛されてるのは自分一人という幻想に酔っていられた。
「スティーブンさん。やっぱり今日は止めてもらえませんか?
何て言うかその……気分じゃないし」
スティーブンさんの身体を押し返そうとするが、その手をつかまれた。
「今日は、どうしても君を抱きたい」
どういう意味なのだろう。
「抵抗されても、止められそうにない。出来れば大人しくしていてほしい」
……いや、そこまで全力の抵抗をする気は。
あらゆる意味で逆らいようがないので、大人しく力を抜く。でも少し涙目だったかもしれない。
するとスティーブンさんはそんな私を見下ろし、
「悪くないな」
聞こえるか聞こえないかの声で、小さく呟く。
そしてフッと笑った。笑ったのだ。
何が悪くない? 何が楽しい?
私で口直しをするのが? 私の従順さを確認出来たのが?
……隠しようのないドロドロの嫉妬にかられた、私を抱くのが?