第7章 彼女の世界
「おか…せ…さま…」
「妻は…だ…」
「奥様…ころ…に」
廊下で誰かが話している声が聞こえた
「っ…!」
いつの間にか寝ていた紗耶はふと目を覚まし時計を確認する
時計の針は6時を回っていた
ガチャ――――
「ただいま」
部屋の扉を開けたのは会社から帰ってきた黒崎だった
「お、おかえりなさい…」
「使用人から聞いたよ。親子そろって寝ていたそうだね」
「ごめんなさい…食事の用意を…」
「いいよ。使用人に頼んでおいたから」
「ごめんなさい…私、」
「たまにはいいじゃないか。是非とも写真を撮りたかったよ」
微笑みながら話す黒崎
「こうして寝ている顔を見るとあなたに似てる」
「そうかい?」
「えぇ。笑った顔も似てるの、やっぱり親子ね」
「でもこの間、大翔におもちゃを渡した時、僕にお辞儀をしたんだ」
「え?…」
「こんなに小さいのによーく分かっているよ。それにこれが欲しいと指さすと、ちゃんと渡してくれるしね。そんな心優しいところは君に似たんだよ」
「んふふ、今日はまたハイハイして名前を呼んだら私のところに来たのよ」
「へぇー!ちゃんと分かってるんだね。次は僕と君のどちらに来るか勝負してみようか」
「ふふ、毎日一緒ですもの負けません」
「休日は僕と遊んでるからね、分からないよ?」
大翔を出産してからやっと夫婦らしい会話が増えたその日から、黒崎はよくホームビデオを撮るようになった