第69章 *お仕事*〜笠松幸男〜
…しばらくして、森山がどうしても行きたい場所に着いて、愕然とした。
そこは…
「め…メイド喫茶?」
「そうだ!これならナンパじゃない上に、可愛い女の子がここぞとばかりにいるだろう!?」
一瞬でも安心した俺らがバカだったよ、とでも言うように、俺と黄瀬は顔を見合わせた。
「よし!行くぞ!」
なぜ俺がこんな所に来なきゃいけないんだ、そもそもこれ香奈に見つかったらヤバいんじゃ…
いや、それ以前に俺自身がヤバい、などと不安は募るばかり。
ただ、その不安さえ、一瞬にして吹き飛んだ。
「お帰りなさいませ、ご主人様っ♡」
黒いスカート、胸元には赤いリボンを着け、その上から真っ白なエプロンをつけている。
…いや、例えいくらフリフリな格好をしていても、俺には分かる。
「…香奈?」
それは、バイトに向かったはずの、俺の彼女。
「…何の事でしょうか?」
「いや、お前香奈だろ!?こんなとこで何してんだよ!バイトはっ…」
そこまで言って、香奈に唇を人差し指で押さえられる。
「ご主人様、店内ではお静かに。では、お席までご案内いたします♪」
俺は客や店員に注目されているのを感じ、それ以上は何も言わなかった。
「ここが皆様のお席です。」
「ありがとな、メイドちゃん♪」
「いえいえ、お仕事ですから。」
森山も気づいてるのに、メイドちゃん呼び。
それで、俺は大体の事が分かった。
香奈の言うバイトとは…この、メイド喫茶のことだったのか。
「では改めまして、今回あなた方の専属メイドを担当させていただきます、遠野 香奈です。」
「…専属メイド?」
「はい。私は、この時間はあなた方だけのメイドとなります。何かご注文はありますか?」
「それじゃあ…」