第69章 *お仕事*〜笠松幸男〜
それから、しばらくが経った。
とは言ってもそれは時計を見る限りの話で、俺にとってはあっという間だった。
今は、森山は他の子も見てくるらしく、黄瀬は電話に出るために、二人とも席に着いてはいなかった。
結果、ここには香奈と俺の二人。
「ご主人様、緊張しすぎですよ。ここに来るのは初めてですか?」
「あ、ああ…////」
「そうですか…。少し、慣れた方がいいんじゃないですか?」
そう言って、突然、俺との距離をぐっと縮める香奈。
叫びそうになるのを必死に堪えた。
大丈夫だ、これは香奈だ。
いつもこんな距離だろ?
「ふふ、ドキドキしちゃいました?」
「っ!!////」
いつも通り、いつも通りと思うほど、その笑顔が特別に感じる。
いつもはなかなかしない、柔らかい微笑み。
…その笑顔を誰にでも向けてると思うと、イラッとした。
「ご主人様、どうし…っ!」
メニュー表を立てて、死角を作り、そこで香奈にキスをする。
キスが終わると、香奈の顔は真っ赤に染まっていた。
「だ、ダメですよご主人様…////私がドキドキさせなきゃなのに…ドキドキさせないでください////」
その照れた顔は俺だけのだと思うと、嬉しくて、俺はもう一度香奈にキスをした。
*お仕事*
その後香奈は、
『あんな笑顔、あなただけです。』
そう言って、また微笑んでいた。