第32章 *10個*〜森山由孝〜
「っ…違う、けど…。見てほしくなくても、見るじゃないですか…。」
何でだろう。
ずっと言いたくて、やっと言えた本心なのに。
…すごく泣きそうで、震えちゃうんだ。
俯く私を、森山先輩が隣から抱きしめてくれた。
それにさえも、安心するのに胸が苦しくなる。
「これじゃまだ、足りないか?」
「…足りない、です。」
当たり前じゃないですか。
今までずっと我慢してきたのに、これだけで許すはずない。
自分のこと小動物に例えるのもなんだけど、うさぎは寂しいと死んじゃうんですよ?
その分あっためてくれなきゃ、困ります。
「…じゃあ、」
先輩は、私を抱きしめる手を離して、トン、とソファに押し倒した。
今まで散々、心の中で悪態をついてきたのに、こう見るとちゃんと男の人なんだなって思った。
「これでいいか?」
「…せ、先輩?」
嫌とかでもないし、まだ早いとか言う気もないけど。
いくらなんでも、ここでは…ちょっと。
それに、いきなりすぎて、心の準備が…。
なんて考えてるうちに、頬は熱くなっていく。
本当に、その気なのかな。
不安半分、でも期待半分で、先輩を見つめる。
「…何するんでも、この状態が一番ドキドキするとネットに書いてあったからな。」
無言で先輩の頭を引っ叩く。
ここまで強烈なのをかましたのは、初めてだ。
…っていうか、ここまでくると、逆にそのサイト気になるんだけど。
怖いから見ないけど。
「だから、香奈のお願い聞くよ?俺に何してほしい?」
逆光の中、先輩が意地悪な笑みを浮かべる。
言わせるんですね、それ。
残念なイケメンのくせにドSとか、やっぱり、この人変だ。
小さく深呼吸をして、まっすぐ森山先輩を見て…私は、口を開いた。
「私の好きなとこ、…私にしかないとこ、10個言ってください。」
いつも上手な森山先輩に悔しさを覚えつつも、嬉しいとか、そういう気持ちの方が大きかった。