第32章 *10個*〜森山由孝〜
「…香奈、本当悪かったって。」
「先輩なんて知りません。」
「俺は香奈が一ば…うおっ、可愛い!」
「…。」
しらーっとした目で森山先輩を見る。
先輩はお店を出てからも、謝りつつ結局他の女子に目を向けていた。
そんなんだから、説得力の欠片もないんですよ。
「ご、ごめんって…。あ、そうだ、カラオケ行こう!」
カラオケに行きたいような気分じゃなかったけど、先輩に手を引っ張られて、しょうがなくついていった。
…なんだかんだ言って、繋ぎ方は恋人繋ぎだし。
私の期待裏切るくせに、時々嬉しい事してくれるし。
よく分からない。
「ごゆっくりどうぞ」
注文したミニパンケーキを置いた店員さんが、部屋を出ていく。
歌う途中に食べたいと、私が注文したものだ。
…先輩も食べる流れになってるのは、何かの呪いということにしよう。
とにかく、さっきの曲が終わって、次に予約がなかったので、自然と休憩時間になっていた。
「そういえば、何でカラオケにしたんですか?他の女子見れなくなるじゃないですか。」
期待する事を半ば諦めてた私は、率直に疑問をぶつけた。
この森山先輩が、女子が集まる楽園ではなく、あえて二人きり状態を選んだのは意外だったから。
ご機嫌を取るためにこういうことをできるほど、器用な人ではないはずだ。
「香奈は、俺に他の子を見てほしいのか?」
その言葉に、ズキンと胸が痛む。
見てほしい?
そんなわけない。
ずっと、他の子なんか見ないでって思ってたんだから。
…私だけ見ててって、心の中で何度も言ってたんだから。