第3章 子供
次の授業はさっき怒られたばかりの中谷教授の授業だ。ゼミ担任でもある中谷教授は、その厳しさ故に皆から嫌われているけど、じつは面倒見がよくあたしは好きだ。
まだ教授が来ていない教室に着き、席に座る。授業に必要な教材を机の上に広げ、教授が来るまでの間、買ったばかりの5sちゃん(スマフォ)をいじる。
メールより便利なラインのアプリのアイコンに、新着のお知らせが出ている。開くと、"ちーちゃん"からだった。
―寝坊した…
あたしはプッと小さく吹きだしてしまった。寝坊した事をあたしに伝える暇があるなら、すぐに準備すればいいのに。
池端千明(いけはた ちあき)。大輝と同じく体育学科2年の女の子。通称、ちーちゃん。1年の時からしているカフェのバイトで知り合い、今ではすごく仲良しの親友だ。とても足が速くてあたしよりも元気が良いから、少しびっくりする。
あたしはちーちゃんにメッセージを送り返すと、あと2分で始まる教室を真っ直ぐに見つめた。
…から見えてしまった。あの赤い髪を。
一番前の席で堂々と座っているのは赤司征十郎君。同じ経済学科2年。帝光中出身で、やっぱり彼もバスケの天才。いや、バスケどころか容姿端麗、頭脳明晰という、トータルレベルでの天才だ。
しかし、あたしは赤司君とは友達ではない。なぜかと言うと…まぁ理由はまた後で話そう。
ガラリと開いた教室の扉から中谷教授が現れ、長い長い講義が始まった。
『ふぁ~…』
全ての講義を終え(今日は週の中で一番講義が多い日)、疲れ切った体にムチを打ち、バイトに向かう。今日はちーちゃんは部活なため、シフトは別だ。
千明「っ!」
『ちーちゃん!今日初めて会うねー!部活頑張って!』
千明「私も今日は頑張れないよ…知ってた?今日今年一番の冷え込みなんだって。そんな中外走るとか信じられない」
『ニュース見た!あ、そだ。ちーちゃん今日の夜暇?』
千明「うん、暇だよー!」
『さつきと大輝、テツがあたしの家来て鍋食べるんだけど、ちーちゃんもどう?』
千明「行く!絶対行く!よっしゃこれで部活頑張れる!!!」
『あはっ、それは良かった。ってやば、バイト遅刻する!また連絡する!』
今日はちーちゃんと全然喋れなかったから、これで大丈夫!さ、バイトバイト!