第30章 学園祭の時間③
お兄ちゃんが黙って屈む。
私はお兄ちゃんに密着する形で作業をする。
胸元がいつもよりハダけたお兄ちゃんの衣装の襟にマイクを付ける。
私…夏祭りの夜に……。この胸に抱かれたんだよね…。なんかもう…昔のことみたい…。
イヤホンを右耳につける。
『違和感ない?』
カルマ『……うん。』
目を合わせずに返事をする。
私がその場を離れようとした時、そばにあったコードに足を引っ掛ける。
こ、こける…。と思った瞬間、私は誰かに支えられていた。
その腕は何度も私に触れた事のある腕…。
『あ、ありがと…。』
カルマ『…………。』
何も言わずひなの達が終わったのを見て楽器を運びに行く。
チューニングがはじまる。
私は、終わるのを見計らい、幕が開ける前のステージで、みんなに合図を送る。
楓や渚、磯貝君、前原君たちが、OK!と合図を送る。
お兄ちゃんもそっけなくではあったけど、私を見る。
私は頷いてバックステージで待つ。
お兄ちゃんたちの曲は二曲。
『クエッション』と『バイバイ イエスタデー』
と、その時、ひなのや桃花に引っ張られて、ステージが目の前に見える観客席に連れて行かれる。
『ひなの?桃花?』
ひなの『いーから、いーから!』