第10章 命の灯火
「タマゴの時点でとんでもねぇ経験してんだなぁ」
「スッゴく冷たいね。氷タイプみたい」
「早く出ておいで~」
「賑やかにしてれば生まれるかなぁ?」
「それいい考えかも。外の世界は楽しいってわかるかもしれないし」
「...五月蝿すぎてもダメだと思うがな」
「とりあえず、ヒヨリとマヤはなるべくタマゴのそばにいた方がいいね」
「確かに。炎の体持ちの子はこの二人しかいないし」
「わかった!」
「側にいる~」
ヒヨリとはウルガモス、マヤとはヒノヤコマの事である。
「...密猟、か」
ドダイトスがぽつりと呟いた。
「ごめんねポプラ、思い出させちゃったね...」
「...いや、いい。もう過ぎた事だ」
フェリシアはポプラと呼ばれたドダイトスの右目をそっと撫でた。実はこのドダイトスも過去に密猟の被害に遭っている。右目の傷はその時の物だった。
「確かに俺はあの時生きる事に絶望していた。だが、そんな俺に生きる力をくれたのがお前だ」
「フェリのお陰で、わたくしは、わたくし達は生きていて良かったと思えるようになったのです。きっとこの子も、そう思える時が来ます。必ず」
「ありがと、ポプラ、ローズマリー」
ポプラとローズマリーの言葉に、優しく微笑み返すフェリシア。
「早く出ておいで~」
「美味しいもの、一緒に食べよ~」
「一緒に遊びたいなぁ」
「バトル、しよ、いっぱい」
「コンテストも出来るかな?」
「この子が生まれたら、僕もお兄ちゃんになるんだ!」
フェリシアの手持ちのポケモンの中でも幼い子達はしきりにタマゴに話しかけている。
「全く、チビッ子共は元気だねぇ」
「新しい家族が増えるのが楽しみなんですね」
「子どもの成長は早ぇなぁ」
「ちょっとウィンル、アンタオッサンみたいだよ」
「煩いぞスカーレット」
それを見てほのぼの(?)する年長組。ウィンルと呼ばれた首に水色のスカーフを巻いたムクホークと、スカーレットと呼ばれた首に水色のリボンを巻いた♀のカエンジシは今にもバトルを始めそうな雰囲気だったが。
「...早く出ておいで。皆、君が生まれてくるのを楽しみにしてるんだよ。確かに、世界には悲しい事や辛い事がいっぱいあるけど、それと同じくらい楽しい事もあるんだよ。だから、生きる事を諦めないで」
タマゴをぎゅっと抱き締め、タマゴに語りかけるフェリシア。