第20章 母の愛情
かつて一度だけ出会った自分の実の母親は、このようなお茶目な人だったのだろうか。
かつて父と交際していたあの女性が、もし自分の母となっていたら、このような笑みを自分に向けてくれたのだろうか。
母と呼べる人がいる真田やレギュラー達が羨ましかった。
母が居ないことを周りの同年齢の子達にからかわれたりもしたし、その親達からは同情や哀れみ、好奇の目線を向けられたりした。
もし自分が、只の何処にでも居る普通の女の子だったら...
目の奥が熱くなり、グルグルとした暗い思考に陥るフェリシア。
その変化に気づいたのは長年一緒に居るフィアンナと、勘の鋭い真田の母だけだった。
「...フェリシアちゃん、」
「え...?!」
「「「「?!」」」」
突然、何を思ったか、真田の母はフェリシアを抱き締めた。
驚いたのはフェリシアだけではない。真田含めたレギュラー陣、挙げ句に弦右衛門までもが驚いた表情をしていた。
「...貴女の家族について私は何にも知らないけれど、辛いときは辛いってはっきり言いなさい」
「...」
「そんな辛そうな顔をしていたら、貴女のポケモン達まで悲しくなってしまうわよ」
「ヒコ...」(ママさん...)
おそらく、真田の母は勘づいているのだろう。
フェリシアの生い立ちを。
今、こうして抱き締めているのも、フェリシアの涙を見せないようにしてくれているのではないのだろうか?
フェリシアのことをずっと側で見てきたフィアンナはそう思った。