第14章 大好きなヒーロー
「……いいのって?」
『側にいなくていいの?出久、オールマイトが来てからも全然安心してないよね。それはどうして?』
「…それは…っ」
それは、緑谷だけが知っている秘密。
通学中は毎日、リアルタイムのヒーローニュースを見ているからわかる。
USJにいるはずのオールマイトがいない、その話題を相澤と13号がしていた時、13号が立てた3本の指の意味を察してしまったから。
(…活動限界のことだ…きっと使いすぎたとかの話だ…でも、今僕らに何が出来る。むしろそうだ…人質にとられでもしたら…)
『オールマイトのこと大切なんでしょ?』
「………大切だけど、今は、信じなきゃいけない時なんじゃないかって」
『出久』
『何物にも代え難い視線を、失ったことはある?』
彼女は足を止めて、じっと緑谷を見据えた。
その大きな、まるで宝石のように妖しく光を反射する瞳に見つめられ、緑谷は一瞬、呼吸を忘れた。
何物にも代え難い。
それは、緑谷にとっての憧れの存在と同義だ。
憧れを失ってもいいのかと。
彼を失う未来を、選択するのかと。
彼女がそう、問いかけてきている気がした。
「……よく、ないよ…」
問いかけられた言葉の真意は、わからない。
確認する前に緑谷は駆け出していた。
僕だけが
知っている
ピンチ
(……嫌だよ、オールマイト)
教えてもらいたいことが、まだ
(山程、あるんだ!!!)
「オールマイトォ!!!」
駆け寄ってきた緑谷に、黒霧が応戦の構えを見せる。
「…浅はか」
と評価した黒霧に殴りかかる直前。
緑谷は、視界の端からミサイルのように飛び込んでくる人影を見た。
「どっ……け邪魔だ!!デク!!!」
黒霧を殴り飛ばしたのは、個性で宙を舞うように飛んできた一人の生徒だった。
彼は黒霧を地面に叩きつけ、もう一度手のひらから爆発を起こした。
その直後、ワープゲートの中からオールマイトの脇腹を掴んでいた脳無の半身が、パキパキという音を立てて凍り始める。
「てめェらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」
そこに現れたのは、もう二人。
脳無を行動不能にし、冷ややかな視線を送る生徒が一人と、死柄木に勇敢にも殴りかかった生徒が一人。