第14章 大好きなヒーロー
死柄木はフラフラとしながらその生徒の奇襲をうまくかわし、距離を取る。
涙目になっている緑谷と、腰から血を流しているオールマイトを庇うように、3人のクラスメート達が敵の前に躍り出た。
「くっそ、いいとこねぇ!」
「スカしてんじゃねぇぞ、モヤモブが!!」
「平和の象徴は、てめェら如きに殺れねぇよ」
加勢に現れた、切島、爆豪、轟を見て、緑谷は涙を堪えながら声を漏らした。
「かっちゃん…皆…!」
階段を登る途中。
急にふらついた向を蛙吹が支えて、大丈夫?と問いかけてきた。
『…大丈夫』
「目眩を起こしてるのね、あんなすごい個性を使ったんだもの。相澤先生は担いで運びましょう」
「だ、大丈夫かよ向…!お前、まさかあんな強かったなんてな。今までの訓練の結果だけじゃ想像もつかなかったぜ…!」
ぐらぐらと歪む視界に立っていられず、階段脇に座り込む。
膝を立てて座り込む向の足を眺めながら、峰田が「良い…」と呟き、蛙吹にドッ!と容赦なく階段から突き落とされた。
つい先ほどまで側にいたクラスメートの叫びを遠くで聞きながら、向は目を閉じて、深呼吸を繰り返す。
「…深晴ちゃん、もしかして相澤先生と学校以外の場所でも接点があるの?」
彼女なりに配慮して、言葉選びをしたのだろう。
動揺してつい口走ったあの愛称を、彼女は聞いていたのだろうか。
『……梅雨ちゃん』
「ケロ、なぁに深晴ちゃん」
『……私と先生は、遠縁の親戚なんだよ』
「そうだったの?だから2人の間には特別な空気が流れてるのね」
『…変な空気感が伝わってた?』
「変ではないわ。そうね…変というよりは、特別、って言った方がしっくりくるわね」
『………。』
そうだよ、という向の返事に、蛙吹は小さく、ケロ…と反応した。
『…特別な人なんだ』
「…先生のこと、男性として好きなの?」
蛙吹の問いかけに、向は俯いていた顔をあげた。
そして、涙ぐみながら一言。
呟くように、答えた。
『……そんなんじゃ、ないよ』