第14章 大好きなヒーロー
一切の笑みを浮かべることなく、オールマイトは、格好だけでも教師らしく見えるようにと、首元で締めていたネクタイを思いっきり引きちぎった。
死柄木がその彼に向かって「社会のごみめ」なんて悪態をついた直後。
入り口付近に立っていたオールマイトが高速移動し、まだ相澤と向を取り囲んでいた敵を軽々と叩き伏せた。
「緑谷少年、向少女、大丈夫か!」
「オールマイト…!相澤先生が、ひどい怪我を…!」
「…シット…!」
集中力が途切れ、プラズマを解体してしまった向に駆け寄って来ていた緑谷が状況を説明した。
相澤の側で『先生!』と呼びかけ続ける向と緊迫した表情を浮かべる緑谷に、少し待っているんだ、とオールマイトが笑いかける。
遅れて来たヒーローが死柄木と脳無に体を向けた直後、敵サイドの3人は腰を深く落とし、身構えた。
「!?」
そんな構えなど無意味なほどのスピードで、オールマイトは広場を駆け抜け、死柄木達の背後にいた蛙吹と、峰田を腕に抱えると、緑谷と向の位置まで後退した。
「皆、入り口へ!相澤くんを頼んだ、意識がない。早く!」
「…え!?あれ!?速ぇ!!」
『…私が運びます』
「向さん、さっきふらついてたよね!?個性使って運ばない方がいいんじゃ…!」
『ははは、大丈夫だよ。さっきのはバランス崩しただけだから』
渇いた笑いを作った向は相澤の身体を浮かせ、自身は歩きながら、入口の方へと向かっていく。
蛙吹と峰田がそれに続いて歩こうとした時、緑谷が声を発した。
「オールマイト、ダメです!!あの脳ミソ敵!!ワン…っ僕の腕が折れないくらいの力だけど、ビクともしなかった!」
「緑谷少年」
オールマイトを心配し、その場を離れない緑谷に、彼はピースサインを目元で作り、笑顔を向けた。
「大丈夫!」
オールマイトから視線を逸らさない緑谷の手を、蛙吹が引いて、教師1人と生徒4人で入口へと向かう。
『出久』
「…えっ」
『いいの?』
隣を歩く向はじっと緑谷を見つめた。
蛙吹と峰田はオールマイトの戦いを見ながら歩いており、バックドロップを決めた彼の周囲に爆風が巻き起こったのを見て、歓声をあげた。