第2章 あっち向いてホイが得意な人
ヂュッ!と男は一息でそれをペラッペラにした後、教室にもそもそと入ってきた。
呆然とする緑谷たちの前でようやく身体を起こし、寝袋から現れたのは、黒ずくめのコスチュームに、首元に黄色いゴーグルをかけたヒーロー風の男だった。
「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
当然のように生徒たちに話しかける男を訝しんでいると、彼はその疑念のこもった視線に端的に答えを返した。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
((((担任!?))))
クラス中がその彼の容貌と言葉のギャップに動揺する。
さて、と相澤は教室を見渡し、一瞬だけ一点に視線を止めた後、また寝袋をいじり始めた。
「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」
相澤は寝袋の中から雄英指定の体操着を取り出し、教室の後ろまでよく通る声で号令をかけた。
「これから、個性把握テストを始める」
相澤は、廊下からクラス全員分の体操着の入ったボックスを二箱、教室内に軽々と運び込んだ。
そしてそれだけ前置きした後、更衣室はこっちだよ、と彼は言い残し、生徒たちを待つことなく歩き始めた。
「やべ、もう行っちまった!おい、とりあえず名前呼ぶから、呼ばれたら取りに来て先に更衣室向かってくれ」
「ケロ、でもそうすると、後半の人たちが相澤先生の姿を見失っちゃうんじゃないかしら」
「あーそっか、じゃあ後半組がなかなか来なくて迷子になってるっぽかったら、誰か迎えに来てくれると助かる!」
「大丈夫だ切島。俺の個性は足音を把握できるから、みんなそれぞれ同じ場所に向かってくれれば更衣室の場所はわかる」
「おぉ、それスゲーな!じゃあ頼んだぜ、えっと…」
「障子」
「障子!」
「私も手伝うわ」
慌てて男女に分かれて収納されているボックスに駆け寄った切島と、先ほどまで麗日と話し込んでいたカエル風の女子生徒が、名前の書かれた体操着を上から出して名前を読み上げようとする。
『待った』
「「「「………?」」」」
その二人にストップをかけたのは、先程クラスの視線を一身に集めていた向だ。
「どうした?向」
『……ねぇねぇ、ちょっとこっち来て』
「えっ、なになに?」