第2章 あっち向いてホイが得意な人
『これどっちも浮かせて』
「ん!任された!」
向が手招きして呼んだのは、テキパキと動く切島と蛙吹に感嘆の声を漏らしていた麗日だ。
彼女に頼まれた麗日は、考えるよりも先に行動を起こし、2つの重たいボックスを宙に浮かせた。
「おぉ、お前こんなことできんのか!」
「すごいわ、お茶子ちゃん」
「いやいや、むしろなんかすぐ言い出せなくてごめん!」
向は後ろ手にその2つのボックスを掴み、廊下に引っ張り出すと、麗日にありがとね、と笑いかけた。
『じゃあ、急ごうか』
向に促されるまま、1- Aのメンバーは駆け足で相澤の後ろを追いかける。
(予想以上に入り組んでて遠いな……)
緑谷は自分の移動した距離と今まで曲がってきた廊下の数を考え、先程切島と障子が提案していた方法では、おそらく相澤を見失い、ほぼ全員が散り散りになって道に迷ってしまっていたかもしれない、と想像した。
「……すごいね、向さん」
『ん?』
ちゃっかりボックスの運搬役を切島と、透明人間の個性持ちらしい女子に押し付け、後方を歩いていた向に、緑谷が話しかけた。
「ほんと、向さんって頭良いんだね!うちの個性なのに全然思いつかんかった!」
うはは、と向とは反対側の緑谷の隣で、少し照れながら笑う麗日に、胸がギュウウと締め付けられる。
梅干しを食べたような表情になった緑谷を見て、麗日が「どしたん!?急に顔芸ぶち込んできた!?」とさらに笑った。
『とんでもない』
ははは、と笑って謙遜する向。
緑谷は、その後も歩きながら麗日と楽しげに会話する向を見て、疑問を感じた。
(…あれ?)
「ねぇ向さん、どうして麗日さんの個性を知ってたの?」
『…どうして?』
「見たことがあったの?」
わかりやすい質問に変えると、彼女は事も無げに答えた。
『あぁ、私出久達と同じ受験グループだったから』
「えっ、そうなの?」
『そうだよ』
「あ、じゃあうちのこともその時に見かけてたってことだよね?」
『うん、その通りー』
掴み所のない話し方をする向。
まだ会話を続けていたかったが、その時ようやく長い移動を終え、1-Aのメンバーは更衣室へと辿り着いた。