第2章 あっち向いてホイが得意な人
見た目、雑魚っぽいよね。
遠回しに罵倒を返された爆豪は両の掌で爆発を起こし、わなわなと指を震わせた。
「おい爆豪、とりあえず落ち着けって!」
二人の間に割り込むように、わざわざ自分の席から立って近づいてきた赤髪の少年が仲裁に入る。
その彼を見て、緑谷も爆豪に声をかけるが「黙れやクソナード!!」とさらに火に油を注いでしまう結果となった。
「向も、その辺にしといてやろうぜ?」
『そうだね、うるさくしてごめん』
「…おいクソ髪…なんで俺がクソ女より下の立場っぽい感じになってんだ!?」
「クソ髪ってどんなあだ名だよ…切島な?切島鋭児郎!だってお前、完全に遊ばれてんだもん。はたから聞いてると、語彙力の差がありありと分かるぜ」
「あァ!?」
爆豪がハッとして向を見ると、彼女はすっかり爆豪への興味を無くしたようにまた右隣に座る上鳴との会話に戻っていた。
その横顔には一切の苛立ちも恐怖心も浮かんでおらず、爆豪のように怒鳴り続けてうっすらと額に滲む汗もない。
「……遊ばれて……?」
ようやくHRのチャイムが鳴り、切島が爆豪に向かって「どんまい!」と言葉をかけた。
「お前も、もう席つけよ!」
「あっ、うん!」
切島に促され、その場を離れるタイミングを手に入れた緑谷は、ようやく自分の座席を確認しにもう一度黒板の前に向かった。
「うわー、うちもまだ見とらんかった!」
廊下側に座るカエルっぽい女子と話していたらしい麗日が、緑谷の隣に並んで座席表を覗き込む。
「今日って式とかガイダンスだけかな?」
少し興奮気味に緑谷に話しかけてくる麗日は、どこかそわそわとして落ち着かない。
緑谷は、そうだね、と返答しようとして、彼女の背後に転がる奇妙な物体を視界に捉えた。
(………超巨大なイモムシ?)
ふと、そんな感想を抱いてしまい、すぐに頭の中でその認識を訂正する。
寝袋に身体をすっぽりと納めたまま、廊下に横たわり、こちらを見つめてくる男から目がそらせずにいると、彼ははっきりとした声を発した。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは…」
ヒーロー科だぞ、と少し迫力のある言葉を発しながら、男はおもむろに、ゼリー飲料のパックを胸元から取り出した。