第12章 決意と躊躇と敵とヒーロー
「23秒」
13号達が敵対しているのと同時刻。
突如、遠巻きに相澤と手下達の乱闘を眺めていた、リーダー風の男が動き始めた。
彼は身体中に人間の手を模したオブジェのようなものを引っ掛けており、その表情すらそのうちの一つが覆い隠していて、定かではない。
本命か!と相澤が男の殺気と動きを見て値踏みし、捕縛武器を投げつける。
秒数をカウントダウンしながら、敵の男はそれを掴んで間合いを詰めてくる。
そのカウントダウンの意味するところを理解し、相澤は舌打ちをしながら地面を蹴りつけ、男の懐へ跳び込んだ。
肘で男のみぞおちを打ち抜いた、直後。
「…動き回るのでわかり辛いけど、髪が下がる瞬間がある」
「…!」
男は囁くような、不気味な声で相澤に話しかけ、急所に迫っていた相澤の肘打ちを受け止めた掌に、力を込めた。
「一アクション終えるごとだ、そしてその間隔は段々、短くなってる」
無理をするなよ…イレイザーヘッド…!
男は掌に覆われた影の中から笑みを浮かべた。
ボロボロと皮膚が崩れ落ちていく右肘を見て、相澤が咄嗟に男を左腕で殴り倒し、跳び退いて距離を取る。
(肘が崩れた…!?)
反射で受け身を取ることなく、身体から地面に倒れ伏したリーダー。
それを見た周りの手下達が相澤を取り囲むが、相澤は右腕を庇いながらも他を圧倒し、戦い続ける。
「…その個性じゃ…集団との長期決戦は向いてなくないか…?」
「…!?」
粘着質な声の出所は、身体をゆっくりと地面から起こそうとしているリーダー格の男だ。
「普段の仕事と勝手が違うんじゃないか…?君が得意なのはあくまで「奇襲からの短期決戦」じゃないか…?それでも真正面から飛び込んできたのは、生徒に安心を与える為か…?」
かっこいいなぁ。
かっこいいなぁ……。
そう言いながら、ようやく体勢を立て直したリーダー格の男が、声色を急に変えた。
「ところでヒーロー、本命は俺じゃない」
振り向いた相澤の背後に、異様な風体の大男が立っていた。
右手を天高く掲げた大男に身構えるが、時既に遅い。
振り下ろされた大きな拳が、相澤の頭の横をかすめ、地面に振り下ろされる。
衝撃を受けた地点からビキビキと地面が割れ、相澤がバランスを崩した瞬間、巨体の膝が相澤の顎に叩きつけられた。