第12章 決意と躊躇と敵とヒーロー
「向くん!」
彼女の個性なら、自分で回避が出来るはず。
そう踏んで、今までの授業の様子から、向よりも機動力が劣る二人を飯田は選んで、助けた。
しかし、彼が手を伸ばした先に立ち尽くしていた向は生徒たちの中で一番先にモヤに絡め取られ、真っ青な顔を飯田に向けたまま、その場から消されてしまった。
「ッ、ワープか!?」
聞こえていたはずの、何人かの生徒たちの悲鳴が消え、ワープゲートが閉じていく。
その場に残された13号、飯田、麗日、障子、芦戸、砂藤、瀬呂はひとかたまりになり、「嬲り殺す」と口にした敵に一瞬の隙も見せないように身構える。
「皆は!?いるか!?確認できるか!?」
飯田の問いかけに、障子が複製腕を動かしながら、答える。
「…散り散りにはなっているが、この施設内にいる」
その言葉を聞いて、13号が身体を敵に向けたまま、飯田を振り返り、委員長、と呼びかけた。
「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えてください」
警報が鳴らず、電話も圏外。
赤外線式の警報機が作動しないのは、それを妨害する個性の持ち主が敵側にいるから。
イレイザーヘッドが個性を消し回っているのに、なお無作動なのは、この施設のどこかにその持ち主を隠しているからだと13号は生徒たちに説明した。
「学校までの距離は3㎞。とすると、君が学校まで駆けた方が早い!」
「しかし、クラスを置いてくなど委員長の風上にも…!」
そう反論する飯田の背を肘で小突き、砂藤が「いけって非常口!!」と後押しした。
「外に出れば警報がある!!だからこいつらはこん中だけで事を起こしてんだろう!?」
「外にさえ出られりゃ追っちゃこれねぇよ!おまえの脚で、モヤを振り切れ!!」
「救う為に、個性を使ってください」
「食堂の時みたく…サポートなら私超!出来るから!する、から!」
「……っ…!」
まだ決めきれずにいる飯田を、「お願いね、委員長!」と、麗日が鼓舞する。
敵前で策を語る阿呆がいますか、と呆れてワープゲートを広げる敵に、13号が指先を向けた。
「バレても問題ないから語ったんでしょうが!!」