第12章 決意と躊躇と敵とヒーロー
脳震盪を起こす相澤に、大男の拳、蹴りが繰り返される。
チカチカと視界が点滅する中、遠くで芦戸が「先生ー!!」と叫ぶ声が聞こえた。
13号の側にいる生徒達に、危険が迫っている。
ーーー助けに、行かなくては。
そう思っても、大男に踏みしめられ、地面にうつ伏せになった身体は言うことをきいてくれそうにない。
ーーー待って!!!
生徒達を置いて、飛び出す直前。
泣きそうな声で、彼女が自分を引き止めた言葉が頭に蘇ってきた。
「………っ…」
こんな所で。
倒れている場合じゃない。
動け。
守れ。
戦え。
たたか
べキ、ボキッ
「……ぐぁ…ッ!」
相澤の露出した右腕の筋肉を直に掴んでいた大男が、まるでその腕を、小枝を折るかのようにへし折った。
身体を駆けずり回る激痛に絶叫し、気絶することすら許されない。
頭を鷲掴みにされ、持ち上げられた時。
視界の端に映る水面から、緑谷、蛙吹、峰田が顔を出してこちらの様子を伺う姿が見えた。
(…あいつら、なんでこんな所に…!)
「なぁんだ……やっぱり脳無の方が強いじゃないか…買い被りすぎだなぁ」
そう呟いたリーダーの男は、辺りをゆったりと見渡した後、階段の上を見上げて、自分の首を神経質そうに引っ掻き始める。
「……うーん……?…うーん…………」
USJの各ゾーンを確認するように、周囲を見渡した彼は、深くため息をつき、赤くなり始めていた自分の首から手を離し、ぽそりと小さな声で呟いた。
「はーー………オールマイトが来るまで…もう少し時間がかかるかなぁ……それにしても退屈だなぁ……黒霧、予定通りにやってるんだろうな…?俺も混ざりに行こうかなぁ…ヒーローの卵を心置きなくブッ壊すなんて……楽しそうだもんなぁ……なぁ、どう思う?先生ぇ」
「…っクソが…!」
「……クソ?おいおい、いいのか先生、そんな言葉遣いしたら、生徒にモテないぜ?」
男は「ははは」と笑い、階段上を見上げた。
そして、急に笑うのをやめ、目を見張った。
相澤がその変化に気づき、赤く染まる瞳を男に向けた。
彼はぼんやりと空を見上げて、呟いた。
「……何やってんだ、あいつ」