第11章 嵐の前の騒々しさ
「…俺でも勝てるゲームがやりたい」
二、三度轟を負かした後、ぽそり、と彼が呟いた。
なんだか可愛らしいその要望を聞き、向は『うーん』と唸った後、提案した。
『ドラマチックしりとりは?』
「…ドラマチックしりとり?」
『しりとりは知ってる?』
「…かろうじて。「ん」がついたら負けだろ」
『そう、それのセリフバージョン兼、場面設定ありのしりとり。ドラマチックな展開に持っていけなかったり、セリフの最後に「ん」がついたら負け』
「しりとりすら初心者なんだが。出来るのか、それ」
『まぁやってみよう。じゃあ…設定は、私が教師で、焦凍は生徒ね。じゃあ焦凍の「と」からスタートで…うーん』
向はコホン、と咳払いをして、首にかけていた戦闘服のゴーグルを顔にセットし、まるでメガネをかけているかのように、クイッと指先でゴーグルを押し上げた。
『「と」りあえず、先生の自己紹介は終わり!質問がある生徒はお気軽「に」!』
「……に……人気ヒーローの先生に、質問です」
『す……すごく持ち上げてくるね。なんですか?』
「か…彼女いますか」
(あ、男教師設定なのね?)
向は、ふむ、と口元に拳を当てて、とりあえず設定を合わせることにした。
『か…彼女はいないんだ』
「だ…だったら…彼氏はいるんですか」
『か、彼女がいないと聞いて、彼氏についても聞くあたり、さては君両刀使いだね?』
「ね…念のために聞いたまでだろ」
『ろ…浪人生の焦凍くんは、変わった感性をお持ちだな』
「…なんで俺が浪人って知ってるんだ?」
『だ…だってずっと君を見ていたんだもの!』
「の…覗きってことか、許さねぇ」
『えっ、そういう展開?』
「今まで俺をそんな目で見てたのか」
『…可愛いと思ってたよ』
「…よせ、迷惑だ」
『だって、君がいけないんじゃないか!』
「可愛いことの何がいけねぇんだ」
『だから君を好きになってしまったんだろう…!?』
「うるせぇ、俺にそんな趣味はねぇからな」
『なんとかそこをお願いしますよー』
「よろしく頼む」
いやBLの上にツンデレかよ!と向がツッコむ言葉が、バスの前方まで響く。
(轟くん、ノリノリだなぁ…)
なんて、少しだけ気分が高揚しているように見える轟を盗み見て、緑谷はそんな感想を抱いた。