第11章 嵐の前の騒々しさ
相澤の殺気を受けた生徒たちは、まるで椅子取りゲームのようにダッシュして、自分の近くの座席に座った。
人数を確認した後、相澤が普段よりだいぶ低い声で「出発するぞ」とアナウンスした。
「向」
車体が揺れ始めてすぐ。
向の隣を「言葉で」「スマートに」勝ち取った轟が、向に向かってかけた声が爆豪の耳に入ってきた。
『…なぁに』
「今日、やたら揺れてたな」
『寝落ちしそうで大変だったよ。今もとても眠い』
「…寝るか?」
『…いや、大丈夫。焦凍が隣来たってことは今日もアレ目当てでしょ』
「…あぁ。自分でもびっくりするほどハマってる」
『それは良かった、気晴らしを提供出来て光栄です』
「今日も、いいか?」
『えっ、いいけど…ちょっと危なくない?』
「静かにしてれば大丈夫だろ」
『うーん。じゃあ、いくよ』
「あぁ」
(………ハマってる?危ない?アレって何だ……)
聞き耳を立てていた爆豪が、無意識に貧乏ゆすりを始める。
会話の続きが聞こえてくるのを待ったが、一向に2人はそれ以降喋る気配がない。
少し待っていると、今度は2人の衣服が擦れている音だけが聞こえてきた。
(アレ目当てって、どういうことだよ……!!アレって何だ、俺の後ろで、2人で何してやがる……!?)
目を吊り上げたままイライラとする爆豪の背後で、轟と向は相澤の機嫌を損ねないようにサイレントモードであっち向いてホイを繰り返す。
6.7回ほど轟が連続でジャンケンに勝った後、ようやく向がジャンケンに勝ち、指を力強く上に振り上げた。
ぐっと持ち上げられた轟の顎が上を向き、勝敗が決まった。
「…向」
『はっはー!満足です!』
お前、ジャンケン弱すぎねぇか、と轟が話しかけてくるのと同時に、てめェら何してやがんだ!?と爆豪が振り返り、その声を聞いて近づいてきた相澤に、また爆豪が縛り上げられた。
「緑谷ちゃん」
制裁を受ける幼馴染を見て呆れていた緑谷に、隣に座る蛙吹が話しかけてきた。
「あっ!?ハイ!?蛙吹さん!!」
「梅雨ちゃんと呼んで」
あなたの個性、オールマイトに似てる。
そう口火を切った蛙吹の話題に、前方の席に座っていた生徒たちも会話に参加し始め、バス内はようやく和気藹々とした雰囲気へと変わった。