第92章
平和の象徴が失われた。
巨悪の根源を打ち倒すのと引き換えに。
最後の最後、私が友達を選びきれなかった代償だとでも言うように。
帰りたいと心から願った日常が。
バラバラ、ばらばらと。
音を立ててゆっくりと崩れ落ちていく。
雄英が全寮制になるという報告は、わざわざ怪我を押して病室に赴いてくれたオールマイトから聞かされた。
色んなものを失いながら、それでも巨悪と戦い抜いた平和の象徴はその事実を私に伝え終わると、ひどく申し訳なさそうに。
「守ってあげられなくて、ごめん」
と。
深々と私に頭を下げてきた。
『……そんなことはありません。戦って、勝ってくれたじゃないですか』
これは、私の自業自得ってやつです。
そう言うのが精一杯で。
彼にまだ、お礼をしっかり言えてない。
復讐する相手が、私が気を失っている間に牢獄に閉じ込められただなんて。
喜んでいいのか、憤っていいのか、わからない。
私の選択は間違っていたのかな。
答えが欲しくて。
怪我を心配してくれるメッセージをくれた彼に、問いかけた。
私とひどく似通って。
何かを選び取ることが苦手な彼は、端的に。
私の求める言葉を躊躇なく選び、告げた。
「間違ってねぇよ」
そして、こうも言った。
「…少なくとも、俺は…おまえに、また学校で会えるのが嬉しい」
本当に間違っていなかったのなら。
なぜ選び取ったはずだった日々に終わりが来るのか、わからない。
行方知れずとなった敵連合。
未だ続いている冷戦状態。
内通者をあぶり出すなんて大人の都合で、転校や退学は認められない。
家庭訪問という形こそ取ってはいるけれど、「ご理解を、お願いします」と聞こえのいい言葉を使いながら、一方的な決定を学校側が押し付けているだけだ。
反対する保護者がいる家庭もあるだろうが、私の場合は。
否応無しに、その強制を受け入れるべき立場の人間が保護者である以上、家庭訪問なんて形式上のものすら開かれる予定はない。
時間がない
そう彼が繰り返すたび
避けられないこの日々の終わりが来ることを、私はまざまざと思い知らされた