第92章
肋骨2本の骨折も、喉も背中も焼けただれて呼吸すらままならなかった大火傷も。
リカバリーガールの治癒によって、綺麗さっぱりとまではいかないが、退院できるまでには回復した。
自宅での待機を厳重に警察から命じられているヒーロー科のクラスメート達は、メッセージを送ってくることはあれ、見舞いに訪れることはなかった。
退院した向もそれは例外ではないのだが、移動は全て相澤の車で行うことを条件に、ひとまず、彼の所へと訪れた。
「深晴!!!マジでもう怪我大丈夫なん!?」
家の呼び鈴を鳴らすと同時に、光の速さで飛び出して来たのは、あの日。
作戦へと赴こうとしていた彼女を引き留めた上鳴だ。
『…うん、怪我は大丈夫。それよりごめんね、電気は怪我しなかった?』
「良かったぁ…切島達から怪我したって聞いてたからさ、マジ焦った!あぁそうそう、俺は電気浴びてショートはするけど、怪我することはねぇよ!」
『…良かった』
「でもおまえさ、そうならそうと言えよ!!!何回も聞いたじゃん俺、『あ、それ勘違いですぅ』って言えば良かっただけじゃん!?作戦の全容言わなくてもさ!?色々あったじゃん伝え方!!!なんか言いたいことたくさんあるけどうまく話せない自分のアホさが憎い!!!」
『ごめんね』
ごめんなさい、と。
向が深々と頭を下げ、ひどく申し訳なさそうに上鳴に謝罪した。
上鳴は、ひどくやつれた彼女の表情を見て押し黙り、呼吸を挟む間も無く、ぶつけ続けていた言葉を一度せき止め、飲み込んだ。
「…まさか、俺が引き止めた時も迷ってたん?俺らと死柄木どっち取るか。…マジないわ」
『………ごめん』
「マジ引く、それはマジでない」
上鳴は言葉を切って。
突然向の頭をわしゃわしゃと撫でくりまわした。
びっくりして咄嗟に顔を上げた向に、上鳴は寂しげに微笑んだ。
「でもいいよ。許す。おまえ良い奴だから」
そんな理由をつけて、上鳴は彼女の謝罪を軽く受け入れてしまった。
良い人なんかじゃないよ、と。
向が否定する言葉を、上鳴が更に否定した。
「良い奴だって。じゃなきゃ俺、おまえ引き留めたりしねぇもん」
俺、意外と友達選ぶんだよ。
そう言った上鳴は笑い、言葉を続けた。
「だから、あんま考え込むなって」