第91章 風向きが変わったら
浅い呼吸の隙間を無理矢理縫って。
手を、離さないで、と。
彼女が死柄木に囁いた。
「……深晴」
『……弔、私…っ』
焼き切れた喉を無理矢理こじ開けて。
彼女は自身の決断を告げた。
『私と…一緒に、行こう…弔…!』
おまえが信じてくれたなら
誰も、信じてくれなくていい
放課後、マックに行きたいとか
カラオケにも行ってみたいとか
そんなおまえの小さな小さな願望に、俺はいつも相槌を打った
いつか、テレビでさ
やってたんだよ
おまえにもっと、俺と話したいと思わせるには
「共感」ってやつが大事なんだって
だからとりあえず
言葉に詰まったら、「ふーん」って言っときゃいいんだってさ
その言葉に続けて、「わかるよ」って言ってやれれば及第点
<初めて、好きな人が出来たんだ>
でもさ、言葉が続かなかった
わかるよって、言えなかった
だって、わかりたくなんかない
全部、全部
俺の勘違いだなんて最悪すぎる
マックも、カラオケも
別に放課後じゃなくたって
俺とおまえで行けばよくないか?
俺じゃダメか?
俺だっておまえの友達じゃないか?
俺だって
俺だってさ
「…だぁから、風!帰れないだろ!」
おまえが何度も
俺を引き留めたりするからさ
俺にも変な癖がついたんだ
風が強く吹いたなら
おまえが俺を呼んでるのかなって
バカのひとつ覚えみたいにさ
俺は振り返るんだよ
向かい風が吹いて
急に後ろ髪を引かれたら
おまえが後ろにいるんじゃないかって
人並みに、期待して
あぁ、やっぱり違うじゃないかって
人並みに、がっかりしてさ
風向きが変わったら
いつも、いつだって俺は
おまえのことを想ってた
本当、バカだよなぁ