第91章 風向きが変わったら
誰も信じてくれなくたっていい。
あの日からおまえは、俺の「特別」になった。
おまえのせいで俺は勘違いしたんだ。
ほんと、ウケるよなぁ。
おまえならわかってくれるって。
おまえだけはもしかしたらって。
俺は雛鳥と人間の命を同じものだと考えてた。
だから、おまえが俺を赦したあの時に。
人殺しの俺の全てをおまえが赦してくれたような気がしてた。
おまえに後先なんて考えられずにのめり込んだ。
おまえを殺す気が失せた。
おまえの隙を作るため、テキトーに理由づけしてた嘘の言葉を、本当にしてやろうと思ったんだ。
『やぁ、こんばんは。また一緒に過ごしてくれるの?』
おまえと一緒にいると、なんだか。
なんだかすごく息がしやすかった。
「…いい加減、仲間になる気になったか」
『ははは、残念ながらまだ無いよ』
安い言葉かもしれないが。
おまえが仲間になってくれたなら。
どんなことでも頑張れる気がした。
「せっかく見逃してやったろ…!恩を仇で返す気か…!」
『折れないなぁキミも。勝手に殺しに来て勝手に諦めて…それは私を助けたとは言わないよ、キミが私に勝てなかっただけの話でしょう』
「うるさい、助けてやったんだ。勝とうと思えば勝てた」
『ははは、わかったよ。そういうことにしておこう』
胸糞悪い仕事の直後。
殺した奴に殺されそうになる悪夢を見て飛び起きた朝。
日陰にいると、なぜか。
いつも、いつだって。
おまえとの雑談が恋しくなった。
「この前、テレビでさ」
おまえはテレビを見ないから、全くクラスメートの話についていけないとぼやいてた。
だったらなんで見ないんだと聞けば、『リビングは家族が集まる場所だから遠慮する』としみったれた理由を口にした。
「…すべらない話ってのがやってて」
『すべ…え、どういう意味』
「…だから、すべらないんだよ。黙って聞け」
でも友達が欲しいとぼやくから。
仕方なく俺が代わりにテレビの話をしてやった。
じゃなきゃあんなつまんないもの、一々見るかよ。
ついでにネットニュースも拾って教えてやった。
おまえのせいで、テレビ番組をチェックしたり、トレンドをやたら検索したり。
俺の日課はすっかり現代っ子のそれと変わらなくなった。