第91章 風向きが変わったら
『ッ……あぁああぁああ!!!!!』
「トラウマが、そう簡単に克服できるわけがないだろう」
「向少女!!」
(マズイ、マズイマズイマズイ!!!)
オールマイトが助けに行きたくとも。
オール・フォー・ワンがそれを許さない。
「ッ深晴!!!!」
「行かせるか!!!」
「大人しく捕まれ!!!」
(ーーークソ、クソックソ!!!!)
爆豪が助けてやりたくとも。
多勢に無勢を覆すだけの力が、ない。
向が反射を解いた瞬間、彼女の身体は炎によって焼き消えてしまう。
我を失ったような叫び声をあげている彼女には、冷静に反射を保ちながら炎撃の範囲から飛び出す演算など、出来るはずもない。
為すすべもなく、彼女の断末魔を聞かされ続けているような最悪な状況。
次第に小さくなっていく彼女の叫びを聞いていられず、声を発したのは彼だった。
「やめろ先生!!!!!」
その言葉を聞き。
オール・フォー・ワンは、一言。
言葉を彼に返した。
「……弔、それでいいんだね」
「…いいから、やめろ。耳障りなんだよ…!」
「…………そうか」
死柄木の訴えに、オール・フォー・ワンが爪を納め、青い炎は瞬時にかき消えた。
炎の中から、顔を両手で押さえていた向が現れ、張り詰めていた糸が切れたように。
地面へと急速に落下した。
「……。」
『っは………ッけほ、ゲホ…!』
死柄木は、熱に喉を焼かれたのか、横たわったまま浅い呼吸を繰り返している彼女を見下ろした。
「…………息、出来てんのかそれ」
『…は…ッ………』
「……なぁ、こういうのはさ。自業自得って言うんだよ。おまえ、友達売ったんだから。当然だろ?喉が焼けようが息がしづらかろうが…おまえのせいだもん、仕方ないよな。仕方ないんだよ」
『……ゲホ、…っ…』
死柄木は向の上に跨り、片手を彼女の首へと伸ばした。
「…だから、言ったろ。おまえなんかには無理なんだって。先生は殺せない」
いい加減分かれよ、と。
そう呟く彼の表情は。
大きな手のひらによって覆い隠されて、どんな感情も読み取れはしない。