第91章 風向きが変わったら
『チーム組むの、久しぶりだね』
向はようやくいつも通りの笑みを血色の悪い顔に浮かべ、爆豪の背を守るように身体を回転させると、低く低く腰を落とした。
爆豪はそんな彼女に視線をくれることはなく、ハッと笑って、彼女と同じワンシーンを思い出したのか、あの時と同じセリフを口にした。
「…俺の足、引っ張ったらブッ殺す」
向はクスリと笑ってみせると、ヴィランの一人を旋風で巻き上げた。
「やーーー!!スカートがぁあああ」
呑気なトガの叫び声につられて、トゥワイスが「えっ本当!?ウソに決まってんだろ」と上を見上げる。
そのバカすぎる反応を見て、爆豪が躊躇いなくトゥワイスの横っ面を蹴り抜いた。
「おい、死柄木!彼女裏切ったって事でいいんだよな」
「…………。」
「死柄木!!指示を!!!」
ぼんやりとまた棒立ち状態に戻った死柄木に叱責を浴びせたMr.コンプレスが、ドッと物凄い風速の向かい風を受けて転倒した。
死柄木は、互いに背中を預けて飛び回る二人を、ぼんやりと眺め続けて。
答えを出せずに沈黙し続ける。
宙に舞い上がったままのトガに向が飛びかかろうと、高速移動で爆豪と離れたのを見て。
「…Mr.、荼毘を」
「…!?」
オールマイトと激闘を繰り広げていたオール・フォー・ワンが、横たわったままだったMr.コンプレスの方へ「個性」で出現させた長く黒い指先を伸ばした。
指示を受け、コンプレスは自身の「個性」で球体の中に匿っていた、気絶したままの荼毘をその場に出現させる。
ドッと、オール・フォー・ワンが荼毘の身体に黒い爪を突き刺し、「個性」を強制解放させた。
声を上げる間もなく、熱風がその場を支配する。
『…っ!?』
ゴォオと円柱状に立ち上ってくる青い炎に向の身体が一瞬で包まれた。
即座に球体状の反射壁を自身の周りに創造し、身を守った彼女の視界は、真っ青な炎で埋め尽くされた。
「騙してしまったお詫びだよ」
君は炎が大好きだろう。
そう笑って言うオール・フォー・ワンの元からオールマイトが駆け出し、助けに行くのを許されず、地面に叩きつけられた。
この世の終わりのように叫び続けている彼女の声を聞き、爆豪が余裕を失った顔で飛び出して、コンプレスに足止めされた。