第91章 風向きが変わったら
「君の、原点を思い出せ!!!!」
(ーーー私の、原点?)
オールマイトのその声が耳に入ってくるのと同時。
向の目の前にいた死柄木が大きく跳び退いた。
死柄木の横から彼の身体を爆破で吹き飛ばそうと飛び込んできた爆豪が、二人の間に割って入った。
目の前で爆発を目にした向の目がくらみ、グラッと後ろに倒れこみそうになる。
なにやらえらくブチ切れている爆豪が彼女の胸ぐらを掴み、引き寄せて、ゴッと容赦のない頭突きをした。
『………いっ……』
「おいコラ」
悶絶して顔を押さえた向のその手首を掴み、爆豪がぐいっとなおも彼女を引き寄せる。
目を潤ませている彼女の顔を吐息がかかる距離で見つめた彼は、怒ったような声を発した。
「ボサッとし腐ってんじゃねぇ殺すぞ、はよ戦え!!!何あのヘボマスク野郎の言葉なんざ真に受けとんだ!!!」
『……勝己』
「頭使え、赤点女ァ!んなわけねぇんだよ!!!テメェは演算無しには何も出来ねぇ没個性だろが!!!」
「…爆豪、おまえ…何を知って、何を聞いて…何を根拠に深晴を庇うんだよ」
死柄木の問いかけに、爆豪は振り返りざまに最大火力でヴィラン達を牽制し、両者の間に距離を生み出した。
彼は痛みに軋む両腕を下げることのないまま、敵を威圧し、無理やり笑みを浮かべて答えた。
「何も知らねぇ」
「…………………は?」
「なンッも聞いたことねぇ。必要ねぇんだよ、ンなもんは…!ヘボマスク野郎のクソつまんねぇ話聞いてりゃ分かるこったろ。「卑怯で、かっこ悪い大人達に憧れたのか」なんて非難めいたこと最初に言っといて、話の最後が矛盾してんだろォが」
「……あぁ、おまえ…頭がキレるんだったな」
「そう言うテメェのボスはおバカさんだな、ンなお粗末な作り話で隙作ろうってか!?みみっちいんだよ!」
「おい、作り話だと言い切「こいつは」
「ンなことしねぇ」
死柄木の言葉をかき消して。
はっきりと、爆豪は死柄木を見据えたまま、泣き出してしまいそうな顔をしていた向を背に庇い、言い切った。
そして、話して聞かせたこともないのに。
幼かった頃の、彼女の本心を言い当てた。
「したくても、出来ねぇんだよ」