第91章 風向きが変わったら
<君は…彼女が表紙だけ話したお父さんの事故に関連する事を、情報を集め続けていた。知ってたんだよ、向少女は。君が信じてくれていたこと。だから君が「カケラでも良いから別の大人にでも話してみろ」って言ってあげた言葉を信じて、私に打ち明けてくれたんだ。彼女は私を信じたわけじゃない、君の言葉を信じたんだ>
「…っ…」
…あの馬鹿。
小さく、そう呟いた。
先輩の言葉がやけに重く響き、頭が痛い。
<…その話の途中、些か心配になる言葉を聞いた。彼女は言っていたんだ。「自分でもたまに、自分のことがわからなくなる」と。彼女のお父さんの事件をうやむやにしようとした当時の警察の内通者や、彼女の母親…多くの大人に言いくるめられたせいで、彼女は今でも自分がヴィランなんじゃないかと錯覚しそうになることがあるらしい>
信じたくとも、信じられない。
おまえが悪いと言われてしまえば、頭がフリーズし、そう思い込んでしまうと彼女は言っていた。
<そういう人の弱みを突いてくるのが得意な奴が、敵連合にいるんだ。不安定な精神状態に陥れば、死柄木のいるあちら側に引き込まれないとも言い切れない>
彼女を引き留める為に助力を、と頼むオールマイトに相澤は反論した。
「待ってください、そんなの。今話されたって俺にはどうしようもないでしょう。タイミングが悪すぎる」
<いや、それは思い過ごしさ。まだ君にしか出来ないことがあるんだ。知るタイミングが悪いことには賛成するけどね>
「………?」
<相澤くん。彼女には教師として拙い私の言葉が届かない。どうしても私はまだプロヒーローとして彼女を引き止める言葉しか、出てこないんだよ。けど彼女に言葉を届けようとするなら、プロヒーローの言葉じゃダメなんだ。だから君に頼みたい。まだ君にしか出来ないことがあるんだ>
生徒が間違った道を選ぶかもしれない。
自分が信じられない、そんな理由で。
そんな、悲しい理由で。
<…だから、私は>
そこでオールマイトは言葉を切って
頼みごとをした
<…相澤くん、君の言葉を借りたい>
「向少女!!!!」