第91章 風向きが変わったら
<救出作戦における人質の安否は最も優先すべき事項だ。だからって…>
だからって、もっと他に方法があったでしょう。
当然の答えが返ってきた。
オールマイトは押し黙り、少しの間をとってまた話し始めた。
「彼女は今境界線上に立っている。…子どもとはいえ、ヴィランの存在を明るみに出さなかった。打ち明けたからといって、すぐに信用が付いてくるものじゃない」
<……だからあんたが作戦に推したんですか?「こっち」側に立っていることを証明しろと?>
「いや、私は特赦を求めこそはすれ、最後まで反対していたよ…彼女に捜査協力を要請したのは、おそらく彼女伝いに警察の失態を知っているであろう死柄木を危惧した警察上層部さ」
<…連絡取り合ってたんなら逆探知だけで十分事足りた>
「前時代とは違う。「個性」を施されたデバイスだったよ。最も手っ取り早い方法をと望む警察上層部は自分たちがいつ死柄木によってリークされ、世間から槍玉に挙げられるのか、気が気じゃないんだろう。そして、彼女が「本当に」ヒーロー側の人間なのか…自分たちを恨んでいるヴィランが欺いているだけじゃないのか…そんな憶測も飛び交って、彼女はこの作戦に参加することとなった。他に、たくさんの回りくどいやり方を何度も提示したが何かと文句をつけられて蹴られたよ」
<…………。>
いつも端的に、冷静に言葉を返してくる相澤が口ごもっている。
電話口の沈黙の意味を推し量りながら、オールマイトは問いかけた。
「……なぜ彼女が打ち明けたのが私だったのか、と思っていないかい?」
<…思わないわけないでしょう>
「…気を遣われた方はたまったもんじゃないが…彼女、とてもUSJの事で責任を感じていたよ。一番身近なヒーローだった君の事を死柄木に話したって」
<ヴィランに狙われることなんか慣れてる>
「ハハハ、我々はヒーローだからね。でも彼女は心配で仕方なかったみたいだよ」
相澤が、何を差し置いてもプロヒーローの矜持を優先させることを彼女はよく分かっていたから。
プロヒーローとしての相澤に助けを求めなかった。