第90章 友さえ罵れ
「あんなに卑怯で、かっこ悪い大人達に憧れたのかい?」
向が男へ腕を向け、手のひらをグググ…と握りしめていく。
膨大な圧力が男の体にかかり始め、男は個性を使ってそれを「反射」してみせた。
「君も、ヒーローが大嫌いなんだろう?なのに、仮免を受けるということは…あぁそうか、君の」
『黙れ…!』
向が腹部を押さえていた方の腕も男に向けて、両手を胸の前でパンッと合わせた。
男の立っていた地面が半球体状にくぼみ込み、「反射」された莫大な圧力をぶつけられた地面がミシミシと悲鳴をあげる。
「お母さんは、ヒーローに固執する病んだ女だった」
ドッと男の体の周りに膨れ上がった重力がかけられ、地面はさらに窪み、クレーターのようにひび割れていく。
「諦めきれなかったんだね」
「向晴香は本当に君に興味がなかった」
「君は受け入れられなかったんだろう」
「訓練の時間すら無くなったら」
「彼女の視線を独占することは「道具」程度には難しい」
『黙れ!!!!』
「何物にも代え難かったんだろう、あんな頭のおかしい母親の視線でさえ」
「君のお父さんも、厳しい訓練の日々に耐えかねていた君を置いて、パイロットの夢を見続けた」
「君は大切な人間に大切にされなかったことを、酷く恨み、悲しみ、そして今でも執着し続けている」
「わかるよ」
「だから、壊したくなったんだろう?君の「個性」だ、お父さんの夢の象徴を海の藻屑としようが、お母さんの目の前でヴィランまがいの癇癪を起こそうが、大丈夫。僕たちは仲間だ、そうだろう?」
『……………は?』