第89章 身から出た錆
誰か、愚か過ぎる私を笑ってくれ。
『それで、あの…本当は、ああいう事するような人じゃなくて…きっと、何か理由が…』
あれだけオールマイトを殺すだなんだとのたまっていた友人の言葉を、私はUSJで再会を果たすその時まで信じきれていなかった。
『……信じられないかもしれないけど…っ全部、本当で…私は、彼に手をあげられたこともないし、弔は子どもが転んで泣いてたら、助け起こしてあげるような人で…彼は…彼は私のこと…』
「…向少女」
弔の元へ再び「先生」が現れるその前に。
私が手を伸ばしてさえいれば、こんな大ごとにはなっていなかったのかもしれない。
手が届くところに彼は居たのに。
私は自分が生きていくのに、精一杯で。
こんなに、友達がいがない私のことを
彼は
『…私のこと…友達だって言ってくれて…』
弔がヴィランだと頭の中でわかってはいても、そんなこと信じたくなかった。
自分が殺されかけておきながら、そんなことすっかり忘れきっていた。
憎くて憎くてたまらないあの男に、あれほど心酔しきっていた弔の一面に、気づかないふりをし続けた。
信じられるわけ、なくないか?
何かの間違いだと思って当然じゃないか?
口調が似てくるほどに、キミと言葉を交わした。
どれだけ話しても話し足りなくて。
キミが立ち去ろうとするたびに引き留めた。
私のお父さんだって、見方を変えれば凶悪なヴィランだ。
だったら弔だって。
きっと。
「…向少女、泣かなくてもいい。君の話を信じるよ。最後まで聞くから、ゆっくり息を整えなさい」
『……ごめんなさい…今まで、言えなくて…』
誰にも言えない、私の秘密
泣いている子どもを放っておかないキミのことが好きだった
小さな命を消してしまったことにすら、指先が震えるほど感情を揺らしていたキミのことが好きだった
私を傷つけるのを怖がって
指一本ですら触れてこないキミのこと
私は大好きだった
死柄木弔、その人は
私の大切な
大切な、たった一人の友達だった