第89章 身から出た錆
保須から帰ってきた次の週。
トゥルーフォームのオールマイトと仮眠室で話をした。
個性の秘密を知りたい私と、個性の秘密を隠したい彼。
そんな二人の腹の中を探り合うような会話は一向に平行線をたどり。
私は。
彼の憔悴しきって窪んでしまった目元に、未だトップヒーローの鋭い眼光が存在しているのを目の当たりにした。
だから、試してみたくなった。
『…貴方の傷に、触れさせてもらえませんか』
生徒とはいえ。
指先が触れれば、人を殺めることの出来る個性を持った他人の願い。
私なら絶対に許さない。
そういう社会だ。
前時代とは違う。
オールマイトがどんな反応を見せるだろうと、半ば諦めて返事を待っていると。
彼はキョトンとした顔をして、突如。
ガハッと吐血して、さらに目をまん丸に見開いた。
「えっ、腹パンとかそういう!?」
『…ド突きはしませんよ。触れるのも痛ければ、見るだけでも』
「いや、触れる程度なら大丈夫だけど…」
もぞもぞと、黄色いストライプのスーツを脱ぎ始めたオールマイトをじっと眺めて。
快すぎる彼の対応に、いささか不安になった。
彼はワイシャツの前を開けて。
痛々しい傷跡の残る自身の腹部を見せてくれた。
『……いいんですか?』
「ん?何がだい?」
ソファの隣に腰掛けて。
私は生温かい彼の傷に触れた。
『……こんなに簡単に触れさせて』
「どうして」
……おいおい。
警戒心が無さすぎる。
『…私の個性の危険性は、教師陣の中で共有されてると思ってました』
「何を言っているんだ」
彼はハハハ、と穏やかに笑い。
疲れ切った顔を私に向けて、言い切った。
「雄英で頑張る君を知ってる。体育祭で、メダルと共に君にかけた言葉は本心だよ。君は本当に素晴らしいヒーローになる」
優しい眼差しを一身に受けて。
同じように、温かい視線を向け続けてくれていた一人の大人を思い出した。
『…オールマイト、本当は私…』
そして
「…なんだい?」
ーーーそのワンピース、よく見せろよ
口先だけ、壊すとか殺すとか言いながら。
私に手を伸ばして、それでも触れられなくて。
また、ポケットに手を深く埋めた彼のことを思い出した。
『……本当は……私、死柄木弔と…友達なんです……』