第89章 身から出た錆
『…そういうことになってる』
「なんだよ、お仲間か」
『なってるってだけ。仲間じゃない』
「ヴィランみたいなこと考えてるくせに…何のプライドだそれ」
『考えるのは仕方ない、性根が腐ってるんだよ』
「もしかしてアレか、やたら身のこなしがガキらしくないのは地下格闘場の出身だからか」
『お父さんを殺したのは私ってことになってる』
「…………。」
『…キミらがどれだけ警察に根を張ってるのか知らないけど。…キミの先生は私に罪をなすりつけて逃げ果せた』
「……は?」
『私は事件直前にアメリカで喧嘩してて…個性を使って何人かの子どもをボッコボコにしてやったことがある。お父さんを馬鹿にしたりするから、正直殺してやろうと思った。でも怒られたくなくて、意図的じゃなくて「個性が暴発した」ってことにした。…本当は私の個性は暴発なんてしないけど』
個性がどの程度自分の思い通りに使用できるのか。
それはその個性を持つ本人しか知り得ない事だ。
科学でも未だ証明のしようがない事。
私はそれを逆手にとって、浅知恵で自分の身を守ろうと考えた。
反省なんかしたくなかった。
私にとってのお父さんは、大勢の人を助けたヒーローだったから。
お父さんは、必要に駆られて個性を使うしかなかった。
それをヴィラン呼ばわりなんて許せなかった。
『…馬鹿だよね。その時私が嘘なんてつかなければ、誤魔化そうとしなきゃ…大人にいいように隠れ蓑になんかされなかったのに』
「……。」
『怪我にうなされて目を開けたら私はヴィランになってた。母は違うって否定してくれたみたいだけど、警察は信じなかった。…個性の暴発で父親を殺したなんて、証拠も何もないのに、私の行いの悪さからそんな「推論」がいつのまにか「結論」に成り代わった』
正直、捜査が打ち切りになった理由をそこまでしか知らない。
他にいくつもいくつも理由があったのかもしれない。
子どもだったから私に罪状がつかなかっただけで、それなりの年齢であれば確実に社会不適合者扱いだ。
表沙汰になれば私のヒーローとしての道が確実に閉ざされる事を危惧していた母をうまく誘導して、警察は自分たちのずさんな捜査結果を人の目に触れないように「事件があったこと」すらもみ消した。