第88章 初仕事
『…!』
雑踏の中、一目見ただけで分かった。
真っ黒なパーカーに、真っ黒なジーンズ、そして真っ黒なスニーカー。
降り積もった雪で白に塗られた住宅街、黒ずくめの男が幽霊のように、ぼうっと立ち尽くしていたあの日の景色は、私の中に鮮烈な印象を残していた。
『……やぁ』
「…ガキのくせに高飛びとはやってくれるじゃないか…どれだけ探したと思ってる…!」
『別に逃げたわけじゃない。キミが来るタイミングが悪かった、引っ越し直前だったんだから』
「調べられるかそこまで!こちとらビギナーだぞ!」
『ビギナー…?…殺し屋の?』
「うるさい…周りの人間巻き込まれたくなかったら…」
多くの人が私たちの横を通り過ぎていく。
そんな中、彼は私の顔を眺めて。
一瞬だけ、驚いた顔をした。
「………。」
『…何?』
「…こっちのセリフだ、なんだそれ」
『……。』
彼が躊躇いなく私の左眼を指差してきた。
私はそれを右の視界だけで捉えて、意味を類推した。
『眼帯』
「…見りゃわかる」
『目を怪我したらするんだよ』
「…んなこともわかってる、なんだ…おまえを消したいのは俺だけじゃないのか…良くないな、困るんだよ…おまえを殺すのは俺の初仕事だぞ、横取りしようとしてるのはどこのどいつだ」
『違うよ、別に殺す気で殴ったわけじゃないだろうから』
保護者の酒グセだよ、と特になんの感情も乗せずに彼に伝えると、彼はまた一瞬押し黙り、私に手を伸ばしてきた。
また乾いた音を立てて「反射」によって弾かれる彼の腕を、二人でぼんやりと眺めて。
彼は私の服装を上から下まで眺めた後、もう一つ質問をしてきた。
「…………おまえ、中学生だろ。制服は」
『あぁ、いつ引っ越すかわからないから、買えない』
「……。」
『ねぇ、そんなことはどうでもいいからさ。少し話が聞きたい。キミは私を殺すのが初仕事なの?ならさ、私を殺さなきゃいけない理由って何?』
「…おまえが警察に先生のことを触れ回るのが良くない…全部、おまえのせいだ。自業自得ってやつさ、ヒーロー気取り」
『別にヒーローになるつもりはないよ、どちらかといえばヴィランになるのかな』
「………は?」
『キミの「先生」とやらを、私は警察に引き渡す気はないよ。自分の為だけに、やるんだ』