第88章 初仕事
『私のお父さんを殺したキミの、「先生」を…私は殺したくて殺したくて殺したくて、ずっと探し回ってるんだ』
私の元へヴィランがやって来ることに理由があるとするなら。
昨年まで諦め悪く、警察に父の事件の再捜査を願い出ていたことくらいだろう。
こんな子どもの動きまで筒抜けということは、逃亡を続けているあの男は巨大な組織に属し、その組織は警察にすら深く根を張っているということだと思い至った。
初めて彼と出会ったあの時は。
心療内科の薬を飲んですぐだったから、正直頭が何も回っていなかった。
『それでさ、キミは彼の何?去年は少し頭がぼんやりしてたから逃がしてやったけど…今回は逃すわけにはいかないなぁ』
「…………。」
殺しても足りないほど私が憎む男のことを、彼はどうやら「先生」と呼んでいるらしい。
(……あの男、人殺しのくせに人並みの生活をしてるのか?)
人殺しは、先生と呼ばれるに相応しい人間じゃないだろう。
人殺しは人殺し。
誰に何を教えるって言うんだ?
人の殺し方でも教えるのか?
それはご大層なことだ。
(…………私が)
目の前の「教え子」を殺してやったなら
あの男に、ほんの少しの傷くらい
「…お父さん」
『……?』
私の言葉を聞いて、途中から目を丸くして押し黙っていた彼は、ようやく言葉を発した。
良からぬ考えを頭に巡らせていた私はその彼の様子を見て、違和感を感じた。
通り過ぎ行く人混みの雑踏。
彼はようやく我に返って、背を向けてきた。
「…来いよ」
『は?』
「……ついて来いって」
『…なんで、嫌だよ』
「…うるさい、いいから」
「お茶でもしよう、向深晴」