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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第88章 初仕事




「…イッテェエ……」


あわや270°ほどの可動域に強制開放されそうだった右腕の肘の関節を左手で押さえて、彼は恨めしげに私を睨みつけてきた。


「ちょっと殺そうとしただけだろ、ガキは手加減ってもんを知らないから…!あー絶対腕折れたー、最ッ悪だよ…これから観光しようと思ってたのに…!」


あの程度の圧迫で折れているはずがないのだが、痛みに弱いらしい彼は舌打ちして、私に背を向け、歩き出そうとした。
私は彼ともう少しだけ、話していたくて。
彼が振り返りたくなるように、ベクトル操作して向かい風を起こした。


「…さっ…む」


予想通り、彼は寒々とした風に背を向けて、また私と視線を交わした。
戦意喪失した彼は眉間にしわを寄せ、私を見下ろし続けた後。
もう失せてしまった戦う気力を呼び戻そうとする努力すらせず、気まずさを人並みに感じたのか、話題を提示してきた。


「…おまえ、よくそんな格好でうろついていられるな?」


そんな格好、とは。
私がコートを着ていないことを指しているのだろう。


『…持ってない』
「………。」


彼は少し目を見開いて、また私を食い入るように見つめた後、二つ目の質問をしてきた。


「…親は?」
『……いない』
「……」
『明日は遊べないね。また遠くに行くから』
「……は?」
『声かけてくれてありがとう』


楽しかった、と伝えると。
彼は無表情に戻り、私をじっと見下ろしたまま。
特になんの返答も、否定もせず、他人の家へとトボトボ帰る私の背を見送った。























初めて出会ったあの日の彼は、ヴィランにしては抜けていて、子どもっぽかった。
強く印象づいているあの男とは似ても似つかない。
次の日。
私は別の親戚に引き取られていった。
北国から、東京へ。
それだけの距離を引っ越せば、もう彼とは二度と会うことがないような気がしていたのに、そんな予想は簡単に打ち崩された。
次に迎えた春の黄昏時。
彼はまた、私の目の前に現れた。

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