第88章 初仕事
突如現れた殺人犯。
パッと見、高校生くらいの歳に見える彼は私を殺そうと何度も何度も手を伸ばし、ついに。
「……さっ…む…もう無理、明日覚悟しとけよ…!」
誰の受け売りを信じてしまったのか、夏服オールコーデで私に戦いを挑んできたせいで、北国の寒さの前になすすべなく敗走した。
(……明日?)
なんとも残念な捨てゼリフ。
本当にまた、明日も殺しに来るのだろうか。
その日、誰かと授業以外で言葉を交わしたのは初めてだったから、私は少し期待した。
(…会えたらいいな)
次の日。
行きの通学路に、彼はいなかった。
帰りの通学路に、彼はいた。
「…やっぱガキだな…別の道から帰るとか、少しは危機感覚えろよ…」
ま、楽でいいけどさ、と呟いた彼は、昨日とは打って変わって、膝まである分厚いダウンコートに身を包み、温かそうなムートンブーツを履いていた。
昨日、敗走がてら買ったのだろう。
なかなか気に入ったものがあったらしい。
ほぼ初対面の私にも分かった。
なぜなら、彼はポケットに手を入れたまま、「これ、買った」と言わんばかりにコートを見せつけて来るからだ。
『……もこもこだね』
「だろ」
バンッ
と彼が私に向けて手を伸ばし
和やかに思えた空気は一転。
彼はあえなく腕の力を反射され、白い息を吐いた。
言葉をそれなりに交わしても、私を殺しに来たことは忘れていないらしい。
またバシバシと透明な壁を叩き、攻撃してくる彼の無駄な行動を眺め続けて、10分。
「…ダメか…なんなんだよ、その個性…うざったいな…」
装備をきちんと整えて来たせいか、一向に諦める様子のない彼を見て。
私は一度、「反射」を解いた。
「……!?」
突如、透明な壁をすり抜けた彼の腕が私の眼前に迫る
その手のひらを見て、私は
彼の腕が私に触れる寸前で左脇に避け自分の右腕と身体で彼の右腕を挟み込んだ後左腕を彼の二の腕に押し込み関節を逆方向へと引っ張る為思いっきり身体を左に傾け「いたたたたた痛い痛いギブギブギブ」