第87章 「友達だろ」
『帰れ』
彼女はそう言い放ち、荼毘の目の前まで高速移動し、蹴りを喰らわせようと足を振り切った。
脳無、と荼毘が声も荒げずに改人を呼び寄せ、脳無を盾にして彼女の蹴りを受け止めた。
ドッ、という彼女の足と脳無の体がぶつかる小さな音がしたのを聞いて、一瞬だけ笑みを崩していた荼毘はまた穏やかな笑みを浮かべた。
「なんだ、本気の攻撃じゃないな。驚かせるなよ…意外と血の気多いんだな…ギャップ効果ってやつか、たまんねぇ」
「んなこと言ってる場合かよ!!こいつ俺らを裏切りやがった!!」
『裏切ってない裏切ってない、ただ今は帰って欲しいだけ』
「裏切ってないって言ってる」
「おまえリーダーだろ、鵜呑みにすんな!!状況よく見ろ考えろ!!もちろん、俺も彼女は裏切ってないと思うぜ」
んなわけねぇだろ!!
とトゥワイスがノリツッコミを披露した時、荼毘が笑みを消して囁いた。
「向、ただでさえ人手が足りてないんだ。本来ならクラスメートの一人や二人殺ってくんのがおまえの仕事だろ?何が気に食わないのか知らねえが、ダダこねて俺達の邪魔してる場合じゃないはずだ」
脳無、向を怪我させずに捕まえろ。
荼毘はそう指示を出し、脳無は「ネホヒャン!」と奇声を発して向に飛びかかって来た。
青山はそのやりとりが両者で行われている間、声を押し殺し、飛び回りながら回収地点から離れていく向を追って荼毘が居なくなるのを見送った。
残されたトゥワイスはといえば。
「…死柄木も荼毘も若えな…俺はトガちゃん推しだけどな…何言ってんだ向だって…いやいやトガちゃんだろ…」
と、完全に自分の世界に入り込み、ぶつくさ誰かと会話をしているような独り言を呟き始めた。
気が抜けて背を向けている、敵が一人。
レーザーを撃って倒せないことはない。
わかっていても青山は動けなかった。
頭の中がこんがらがって、それどころじゃなかった。
「君さ、ショッピングモールの日からずっと彼女のこと探ってたろ。あれってなんで?」
図星だった。
青山の言う通り、俺は情報を集めてた。
飯田の非常口ポーズ知ってるかって聞いたり。
深晴の姿が見えなかったら、彼女の所在を確かめた。
不安で仕方なかったからだ。
気が気じゃなかったからだ。