第87章 「友達だろ」
「俺だってこんなことしたくない……っでもおまえが答えないなら、仕方ねぇよな…!?」
そうだ、こんなことしたくない。
女子と戦うなんて、サイアクだ。
しかもそれがずっと片想いしてたおまえなんて。
もっとサイアク。
「今頃切島は何も知らずに、体張っておまえ助けた爆豪を追いかけてる…!ダチをほっとけないんだってさ…だったら俺もなんかしねぇとさ…!俺らいつメンだろ、爆豪が帰ってきたっておまえがいなかったら意味ないっしょ…!」
いつも、一緒にいた。
おまえが一緒にいると嬉しかった。
おまえが一緒にいないと寂しかった。
だから強く印象づいて、忘れとけばいいことまで忘れられなくて、気づかなくてもいいことにすら気づいてしまった。
考えすぎかもしんないけどさ。
春先に、雄英がマスコミに侵入されたあの日。
深晴は轟に会いに行くっつってたのに、轟は食堂に深晴を迎えにきた。
教室から食堂までの廊下は一本道なのに。
なら、おまえはどこにいたんだよ?
なんでおまえ、初めての戦闘訓練で「当たりくじ」引いたのに。
敵チームやりたいなんて言い出したんだよ?
クラスの皆で行った、木椰子区のショッピングモール。
深晴が不参加で、寂しくて。
出入り口のアーケードを眺めて、おまえが遅れて来たりしないかな、なんて望み薄なことを考えた。
そしたら、本当に深晴が現れて。
俺が駆け寄って声をかける直前。
おまえは待ち合わせでもしてたのか、身長の高いパーカーの男と落ち合った。
緑谷からあとで死柄木の服装を聞いて。
ウソだろって思おうとしても、もう無理だった。
「…痛くされたくなかったら、早く答えろよ!!」
あぁ、きっと。
痛い目見るのは俺の方。
だってそうだろ、俺の個性じゃ勝てっこない。
それぐらいアホでもわかるんだ。
「なんで…ッ」
おまえは死柄木と会った時、いつも通りの笑みを浮かべてた。
俺らに向けるのと変わらない、優しい微笑み。
だからさ、わかってた。
おまえら、友達なんだなって。
わかってて誰にも言わなかった。
だって、俺はおまえを友達だと思ってるから。
おまえ良い奴だと思ってるから。
おまえのこと、俺は大好きだから。
騙されてたって、ヴィランだって。
大好きだから。
けどさ、もう俺だけの問題じゃない。
だから、黙ってはいられない。