第87章 「友達だろ」
『…電気』
背後から肩を掴んで来た上鳴の手。
いつも通りの笑みを浮かべている彼は、向が振り返ってもなお、手の力を緩めたりしなかった。
「…深晴、目ェ覚めたんだな!よかった!でもまだ動くには早いって、ベッド戻ろうぜ!」
『…うん、ありがとう。電気、どうしてここに?もう20時だよ』
「おまえが起きんの待ってた。タイミング悪くね?俺がちょっとトイレ行ってる間に起きてくるなんてさ」
『……ずっと居てくれたの?私の病室に?』
「あぁ」
『…ありがとう、でももう大丈夫。人を待たせてるから、もう行くね』
手、離して?
完璧な笑みを浮かべて上鳴に微笑みかけてくる彼女を目の当たりにして、彼の指先が震え始めた。
無理やり取り繕っていた上鳴の笑顔は崩れ始め、彼が口元だけ笑ったまま、焦ったように言葉を続けた。
「どこ行くん?」
『…………。』
林間合宿中、彼がやたらと向にかけて来たその言葉。
なぜそんなことを一々聞くのかと思っていたけれど、成る程。
『…んー、内緒』
「…誤魔化すなって。どこ行くん?」
『その辺』
「何しに?」
『ははは』
あぁ、なんだか懐かしい。
そういえばあのクラスに入って、初めて声をかけてくれたのは、彼だった。
似たような言葉を返して笑うと、上鳴はより一層引きつった笑みを浮かべて、向の肩口を強く掴んだ。
「……なんで?」
『…なんでって何が』
「なんで死柄木弔と電話してんの?「トムラ」って…そう聞く名前じゃねぇし、USJで俺ら襲って来た敵のリーダーだろ?」
『……同姓同名だよ』
「ならなんで死柄木と木椰子区のショッピングモールに居たん?それはどう説明すんの?」
『………それは…ドッペルゲンガーとでも言っておこうかな』
「アホだからって嘘つき通せると思うなよ」
バチッ!と上鳴の髪が静電気で逆立ったのを見て、向がハッとした。
突如、彼の手を伝って走り抜けてきた電気を向が彼の手のひらごと反射で弾き、大きく距離をとって跳び退いた。
背中の痛みに顔を歪め、苦悶の表情を浮かべる向に。
上鳴はバチバチと電気を身に纏い、発光したまま怒号を飛ばす。