第9章 お忘れではございませんか
午後の時間を使って、緑谷の進言で学級委員長に返り咲いた飯田、八百万が司会を務め、他の委員を決めることになった。
ヒーロー基礎学じゃねぇのか、と少しやる気を削がれながら、ぼんやりと向を眺めて過ごした。
観察の結果。
あいつはやっぱり、俺と同じようにどの役職にも手を挙げなかった。
「じゃあ今日はこのままHRを始める。オールマイトさんが教師に就任した件でマスコミが意地になってるから、ヒーロー科の生徒だってバレて帰り道で取材陣に囲まれないうちに帰れよ。面倒ごとになりたくなかったら、寄り道すんな。まっすぐ帰れ。以上、また明日ね」
さらっと俺に釘を刺して、相澤先生は教室から出て行った。
大して意見を曲げてまっすぐ帰ろうという気持ちにはならない俺とは対照的に、向は釘を刺されたことに対して深く熟考することにしたようだった。
向の席まで歩いて行って、彼氏面の次はグレることにしたらしい爆豪が、荒々しく座席を蹴って立ち去るのを眺めた。
「騒々しいな」
『…んー、バレないよね?寄り道したって』
「…マスコミに捕まってテレビデビューしなけりゃな」
『あーそっか、昼の騒動マスコミのせいなんだっけ?』
うーん、と考え込む向が、寄り道しない、という選択肢を選んでしまいそうで、俺は言葉を発した。
「帰りながら考えればいいだろ」
『…あ、たしかに』
帰ろうぜ!とパッと笑ってみせる向と、クラス中の視線を背後に浴びながら、教室を出た。
「YOーお二人さん!また明日な!」
『プレゼント・マイク…っまた明日です』
下校する途中、相澤先生、ミッドナイトと話し込むプレゼント・マイクが俺たちに遠くから声をかけてきた。
寄り道せず帰れよ!という彼の言葉と、相澤先生の視線を受けて、なんとなくわかった。
「…向、今日は帰った方がいいのかもしれねぇ」
『え?どうして?』
「先生方が慌ただしい。多分、マスコミを警戒してじゃなさそうだ」
送ってく、と提案すると、向は『いやいや大丈夫!!』と大げさにその言葉を却下した。
そこまで断られてしまうと、なんだか少し気落ちして、「そうか」という単調な返事しか返せなくなった。
向と2人、たまに会話を重ねながら、駅までの道を歩いていく。