第86章 終わりと始まり
ーーー事件発生まであと10分
「…おい」
神奈川県神野区、某所。
敵連合のアジトである隠れ家バーのホールで、椅子に拘束されたままの爆豪がようやく自主的にヴィラン達に話しかけた。
「あっ、アイテム取れなかった」
「おいイカレ野郎、ゲームん中でもイカレてんのか。そっちに行くと逆走だろ」
「おいコラ、聞いてんのか」
「…おまえら…ちょっとは手加減しろよ、こちとら作戦失敗のせいでメンタルだいぶやられてんだぞ…」
「ちょっとちょっとトムリン、逆走してるトガちゃんより順位低いってどうなってんの!?」
「気色悪い呼び方するな…んなに言うならマグ姉、代われ…」
「おい聞いてんのかって」
爆豪がポツンと取り残されているホールの壁際。
やいのやいのと盛り上がっている敵連合のメンバーは、ディスプレイにゲーム機を繋ぎ、某有名キャラクターが織りなすカーレースに興じていた。
「死柄木弔、爆豪が何か話したがっています」
「……ようやくか……」
唯一参戦することなく、カウンターから爆豪と遊び呆けている仲間達を交互に見やっていた黒霧が死柄木を呼んでくれた。
しかし、マグ姉に代われと言っておきながら一切コントローラーを手放す気がない死柄木は、少しだけ反応を見せたあと、また画面を食い入るように見つめて反応を返さなくなった。
「………死柄木弔、爆豪が」
「わかったわかった……あともう少し」
「………死柄木弔」
「……わかったって…あと5分」
「死柄「わーかった、もうやめる」
そう言ったからには、やめてくれるだろう。
そんな黒霧の期待も虚しく、きゃっきゃと楽しげなメンバー達は爆豪に背を向けたまま、振り返ることがない。
「……死柄木ッ!!!弔!!!」
「…怒るなよ…ちょっと盛り上がっちゃっただけだろ…」
「あれ?弔くんずっと最下位ですよね!」
「よし!勝てるぜ!!やばい負ける!!トガちゃん見て、この俺の勇姿を!!ビリは俺のもんだ!!」
一位を走り抜けていたトゥワイスが最終ラップのゴールを駆け抜けようとした瞬間。
死柄木がカウンターに置いてあったゲーム機の電源をブチっと消し、くるりと爆豪を振り返った。
「あぁああぁあ死柄木ぃいいセコイだろぉがよぉ!!嬉しいいいい」
「さて…仕事をしなきゃな…」
「大人気なさすぎだろ」