第86章 終わりと始まり
「……そうだよな。悪い」
切島は足早に歩いていた歩みを止めて、ようやく上鳴の顔を見た。
「いや…こっちも味方してやらなくてごめん」
こういう不測の事態に身を置きながら、いつも通りに振る舞うことの方が難しいのに、上鳴はいつも通りの笑みを崩さない。
(…わかってる)
上鳴だって平気なわけはない。
彼は友達想いの優しいヤツだ。
上鳴だけじゃない、クラスメートの誰もが敵の元へ赴くと言って聞かない切島に賛同してくれなくとも、だからといって爆豪が心配じゃないわけはない。
そんなことは切島にも分かっている。
けれどだからこそ。
一番仲のいい上鳴には味方でいて欲しかった。
一緒についてきてほしかった。
「なぁ上鳴、なんでおまえはついてきてくんねーの?」
「……なんで?……あー。なんつーかさ。正直アホらしくね?」
「……………は?」
「戦闘行為はしねぇっていうけどさ、そんなんわからないじゃん。俺痛いのとかマジ無理、マジ勘弁」
「…………。」
(…本心なわけ、ない)
そんな上辺だけの言葉を並べ続ける上鳴のぎこちなさに、切島は動揺することなく、もう一度問いかけた。
「上鳴、なんで?」
「………。」
上鳴はハッとして、笑みを消した。
そしてひどく申し訳なさそうに、「ぁー…」と小さく呟いた後。
何かを考えて、一言だけ答えた。
「…俺深晴の側に、居たい」
「…そっか」
「…うん、ごめん」
「いいって!俺のわがままに無理やりダチを巻き込むわけにいかねーし」
気まずそうに視線を合わせない上鳴を見て、切島はバシッと彼の腕を叩いた。
「なんか理由があんだろ?話せる時になったら教えてくれな!」
「……え」
「皆!聞いてくれ。今日の夜俺と轟は爆豪救出に向かう」
「っちょ、切島!何度も止めてんじゃん、おまえ…っ」
腕を引っ張ってくる上鳴の制止を振り払い、切島が前方を歩いていたクラスメート達に再度呼びかけた。
「詳細はメールで送っとく。来てくれる奴がいんなら、あとでまた俺に連絡してくれ」
そう告げた切島は最後に一度だけ上鳴を見て。
上鳴はまた、何かを言い淀んで俯いた。