第86章 終わりと始まり
「切島、落ち着けよ。こだわりは良いけどよ…今回は…てか静かに、病院だぞ」
顔を上げ、人差し指を口元において指摘してきた上鳴に、切島は顔を向けることすらしない。
彼は睨みつけてくる飯田に必死に抗議し、「飯田ちゃんが正しいわ」と飯田・上鳴と同じ反対側の肩を持つ蛙吹の言葉に被せて、さらに言葉を続けた。
「飯田が皆が正しいよ、でも!!なァ緑谷!!まだ手は届くんだよ!!」
「………!」
そう告げられた緑谷の目に、はっきりとした意志が宿ったのを見て、飯田がハッとした直後。
芦戸がこんがらがっている自分の思考回路をクリアにしようと、言葉に出して切島の言い分を繰り返した。
「…ヤオモモから発信機のヤツもらって…それ辿って…自分らで爆豪の救出に行くってこと…!?」
「敵は俺らを殺害対象と言い、爆豪は殺さず攫った。生かされるだろうが、殺されないとも言い切れねえ。俺と切島は行く」
「ふっ…ふ、ざけるのも大概にしたまえ!!」
引かない切島・轟と、反論を続けるクラスメート達の議論は平行線を辿り、病室の扉をノックして現れた主治医の登場により打ち止めとなった。
「お話中ごめんねー緑谷くんの診察時間なんだが…」
「い…行こか、向とか、耳郎葉隠の方も気になっし…」
ぞろぞろとクラスメート達が退室して行く中。
最後まで残っていた切島が、緑谷にぼそっと囁いた。
「八百万には昨日話をした。行くなら即行…今晩だ。重傷のおめーが動けるかは知らねえ、それでも誘ってんのはおめーが一番悔しいと思うからだ」
今晩、病院前で待つ。
そう言った彼の言葉を確かに耳にした飯田と、上鳴は目を見合わせ。
飯田はグッと眉間にシワを寄せ、上鳴は困った顔をして視線を斜め下に落とした。
「…切島、行こうぜ」
「…!」
自分を呼ぶ上鳴の声に切島がムッとした顔をして振り返り、病室から出て、立ち止まって待っていた上鳴の横を何も言わずに通り過ぎた。
「なぁ、無視すんなよ。一緒に行こうって一番先に誘ってくれたのに断ったのはマジごめん、でもさ。フツー断るだろ、だって飯田の言う通りじゃん!」
「んなことわかってる、無視だってしてない」
「してんじゃん!!何そのあからさまなヤな態度!俺だって平気な顔してるだけで友達二人攫われるわ怪我させられるわショックですけど!?」