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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第85章 無いものねだり




「わっ、相澤先生来てたんすか!」
「…切島、轟」


向の病室に入ろうとした時、病室から出て来た相澤とバッタリ出くわした。
ヒーローコスチュームではない、私服姿の担任。
いつもより更に覇気がない相澤は「早めに家に帰れよ」と言い残し、立ち去って行く。
個室の扉が閉まったところで、轟と切島が顔を見合わせ、呟いた。


「…八百万の話、本当だと思うか?」
「…警察に話してたんだ、嘘ってことはねぇだろ」
「なら、八百万に受信機もう一つ作ってもらったらさ、敵の位置わかるんじゃねぇか?俺らも敵のアジトに辿り着ける!」
「やめとけ。プロの邪魔になることだって考えられる」
「おまえ何でそんな落ち着いてんだよ、今にも爆豪は殺されそうになってるかもしれねえんだぞ!?」
「だからって、俺らが行ってどうにかなる問題でもねぇよ」


戦えない以上はな。
轟はそう言って、俯いていた視線をようやくあげた。


「………。」


横になったまま、入口側に背を向けている彼女。
震える指先をきゅっと握りしめて、轟は向のベッドへと近づいた。
包帯を額と背中に巻かれた彼女の目元は濡れていた。
勝己、という言葉を口にした彼女の手を取って、轟は彼女の為にあるパイプ椅子へと腰を下ろした。
先ほどまで、きっとここには。
彼女の唯一の家族である、担任が座っていた。


ガスで意識不明となった生徒達を運ぶ為、何度も施設と森を往復していた相澤は、向が連れ去られようとしていたあの現場にはいなかった。
タイムリミットも敵の数も分からないあの状況では、相澤の行動は合理的であり、最善だった。
情報が圧倒的に不足しているあの逆境で、結果として彼が森から施設まで助け出した生徒の数は、両手の指に収まらない。


(……比べものにならねぇ)


自分はといえば。
他の友人達に爆豪と意識不明者を押し付けて、彼女のもとへと走ったくせに、何も出来なかった。
頭に血が上って、敵が逃げ果せるだけの物理的距離を無駄にあけてしまったせいで、爆豪を取り返すことができなかった。


(……行ったところで、俺に何が出来る?)


俯く轟を見て。
切島が声をかけようとした時、向が呟いた。







ごめん、勝己。







その言葉を聞いて。
切島が俯き、また顔を上げて轟へと言葉をかけた。


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